難病のメカニズム理解につながる
生体防御医学研究所
土本大介 助教
ポイント
・イノシン三リン酸(ITP) *1は通常細胞内にほとんど存在しない非正規ヌクレオチドであり、ほぼ全ての生物は各々ITP分解酵素を有し、積極的に分解していることが知られていた。このITP分解酵素の欠損はヒトでは発達性およびてんかん性脳症35(DEE35)の原因となる。
・今回世界で初めてこのITPが生体内で生じるメカニズムを解明した。
・難病の治療法開発へつながることが期待される。
概要
難病である発達性およびてんかん性脳症(DEE*2) の一種にDEE35という疾患があります。その発症の原因となる非正規ヌクレオチドであるイノシン三リン酸(ITP)については生体内でどうやって生成されるのかわかっていませんでした。九州大学生体防御医学研究所の土本大介助教らのグループは、このITPの生成経路を解明しました。
ITPおよびデオキシイノシン三リン酸(dITP)は大腸菌からヒト細胞まで広く生物に毒性を示す非正規ヌクレオチドであり、各生物は特異的分解酵素を持ちこれらの細胞内濃度をごく低いレベルに保っています。ヒトではイノシン三リン酸分解酵素(ITPA)がその機能を担っており、ITPA遺伝子欠損はITP蓄積により上述の疾患DEE35を引き起こします。土本大介助教らのグループは正常ヌクレオチドであるイノシン一リン酸(IMP)*3が細胞内の酵素によって二段階リン酸化を受けてITPが生じるとの仮説に基づき、ITPA遺伝子欠損培養細胞を用いてITP生成に必須の遺伝子としてグアニル酸キナーゼ1(GUK1)*4遺伝子を同定しました。このGUK1遺伝子の働きを抑制するとITPA欠損細胞とITPA欠損マウス(ヒトDEE35モデル動物)におけるITP蓄積が抑制されました。またITPA欠損マウスの短い寿命がGUK1遺伝子抑制により延長されました。このことから細胞内でIMPがGUK1によってリン酸化されてイノシン二リン酸(IDP)となり、IDPは更にリン酸化されてITPが生成されると考えられました。今回の発見はDEE35の理解と治療法開発につながることが期待されます。本成果は2026年7月30日(現地時間)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」に掲載されました。
研究者からひとこと
難病の一つであるDEE35の治療につなげることを目的として、原因分子ITPの未解明だった生成経路解明を試み、成功しました。今回見つけたGUK1は強く抑制すると別の疾患の原因となってしまうためすぐに治療に結びつけるのは難しそうですが、今後も難治疾患のメカニズムの解明を続け、治療に結び付けたいと思います。(土本大介)
用語解説
(※1) イノシン三リン酸(ITP):通常はイノシン三リン酸分解酵素(ITPA)により分解されるため生体内にほとんど存在しないが、ITPAが欠損すると蓄積する。その構造はATP (アデノシン三リン酸)やGTP (グアノシン三リン酸)といった重要な正常プリンヌクレオチド分子と非常に似ている。そのため、ATPやGTPの邪魔をする可能性がある。
(※2) DEE:発達性およびてんかん性脳症(Developmental and Epileptic Encephalopathy)。生後数週間以内の乳児早期に発症する難治性のてんかん。多くの原因遺伝子が判明しておりITPA遺伝子はDEE35の原因遺伝子。発症機構が未解明なものが多い。
(※3) イノシン一リン酸(IMP):ITPと異なり、通常細胞内に存在する正規ヌクレオチドの一つ。生体に必要なアデノシン三リン酸(ATP)やグアノシン三リン酸(GTP)を細胞内で合成するための中間体として機能している。
(※4) グアニル酸キナーゼ1(GUK1):グアノシン一リン酸(GMP)をリン酸化してグアノシン二リン酸に変換する酵素。今回の研究の中で、GMPとよく似たIMPもリン酸化することが確認された。
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