深海の光タンパク質は圧力にどう耐えるのか?

静水圧分光により細菌のロドプシンの高圧適応メカニズムを解明

先導物質化学研究所
福原学教授/濱地智之助教

ポイント

・深海に生息する微生物の光応答性タンパク質が、高圧環境でどのように機能を保つのかは未解明だった。
・深海性の細菌由来のロドプシン(※1)PoXeRが、圧力によって三量体構造の形成を促進し、高圧下で構造を安定化することを発見した。
・高圧環境における微生物の適応メカニズムの一端が明らかとなり、高圧下でも機能する光応答性材料の開発が期待される。

概要

 深海のような高圧環境に生息する微生物は、通常の環境とは大きく異なる圧力条件のもとで、タンパク質の構造や機能を維持しながら生命活動を行っています。従来は、光エネルギーを利用してイオン輸送などの役割を担う微生物ロドプシンが、高圧環境下でどのように構造を保ち、機能を発揮しているのかが十分に分かっておらず、極限環境におけるタンパク質の適応機構の解明が望まれていました。
 今回、九州大学先導物質化学研究所の濱地智之助教、福原学教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻の井上圭一教授、永田崇助教、加藤善隆特任助教、呂子琨大学院生、萬年健太郎大学院生(当時)らの研究グループは、深海性の細菌由来のロドプシンPoXeRに着目し、高圧下における分光特性評価を行いました。その結果、PoXeRが圧力によって三量体構造の形成を促進し、分子集合状態を変化させることで、高圧下でも構造を安定化するという新たな仕組みを解明しました。
 本研究グループは、深海性の細菌由来のPoXeRと、常圧環境に生息する微生物由来のGloeobacter rhodopsin(GR)を比較し、静水圧(※2)下での吸収、蛍光、円二色性などの分光測定を行いました。その結果、GRは加圧によって不可逆的な構造変化を示し、除圧後も元の状態に戻らない一方、PoXeRは加圧後も構造を可逆的に維持することが明らかになりました。さらに、円二色性スペクトル(※3)の解析により、PoXeRでは圧力によって三量体成分が増加し、この会合状態の変化が高圧下でタンパク質が構造を維持し、イオン輸送機能を保つ安定性に寄与していることを見いだしました。
 今回の発見は、深海生物が高圧環境に適応するための分子レベルの仕組みを明らかにするものです。また、過酷環境・極限環境でも安定に働く光応答性タンパク質材料や、ロドプシンを利用したオプトジェネティクス(光遺伝学)分子ツールの開発に役立つことが期待されます。
 本研究成果は英国科学雑誌「Scientific Reports」に2026年7月8日(水)(現地時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

今回、深海性の細菌由来のロドプシンが高圧下でどのような挙動を示しているのか?という極めて単純な科学的好奇心で研究をスタートさせました。実際、静水圧スペクトル測定によって、三量体成分が増加し、この会合状態の変化が高圧下での安定性に寄与していることを世界で初めて明らかにしました。この結果は、これまで謎の大きかった深海生物の進化と深化解明のヒントになり得るでしょう。(福原学)

用語解説

(※1) 微生物ロドプシン
細菌や古細菌などの微生物がもつ光応答性の膜タンパク質です。光を吸収すると内部のレチナール分子が構造変化し、プロトンやイオンの輸送、光情報の伝達などの機能を発揮します。

(※2) 静水圧
液体中で分子に全方向から均一に加わる圧力のことです。分子全体を等しく圧縮できるため、分子構造や光応答性の変化を調べる手段として用いられます。

(※3) 円二色性スペクトル
右回りと左回りの円偏光の吸収の違いを測定し、分子やタンパク質の立体構造に関する情報を得る分光法です。特に、発色団どうしが近接して相互作用すると特徴的な信号が現れるため、分子やタンパク質の会合状態を調べることもできます。

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