拍動流中における柔軟な粒子の局在化現象を発見

~細胞分離・検診・創薬における新戦略の提示~

工学研究院
武石 直樹 准教授

ポイント

・細胞のような柔軟な粒子(内部流体と膜から成るカプセル)が管路内の拍動流中(※1)で「どこ」を「どのように」安定して流れるのか、という物理は自明ではなかった。
・数値シミュレーション技術を駆使し、拍動流中でのカプセル(※2)がその変形量と拍動周波数に応じて管路断面内の特定の位置に収束することを明らかにした。
・本知見は、次世代の細胞分離技術、細胞検診、創薬スクリーニング技術に応用されることが期待される。

概要

ヒト血液の輸送は特定の周波数を有する拍動流であることからも、非定常な流れ(※3)(時間的に変化する流れ)における変形粒子の挙動の解明は、生命現象を維持する力学の理解にとどまらず、医療デバイス設計に関わる基礎的知見と言えます。しかしながら、流路中を流れる粒子の変形と位置を実験的に追跡することは困難であるため、細胞のような柔軟な粒子がそもそも流路内の拍動流中で「どこ」を「どのように」安定して流れるのか、という物理は自明ではありませんでした。

九州大学大学院工学研究院の武石直樹准教授は、京都大学数理解析研究所の石本健太准教授、東京電機大学工学部の横山直人教授および沖縄科学技術大学院大学のMarco Edoardo Rosti准教授と共同し、数値シミュレーション技術を駆使することで、管路内拍動流中を流れる柔軟な粒子(内部流体と膜から成るカプセル)が、自身の変形量と拍動周波数に応じて管路断面内の特定の位置に収束することを発見しました。

本研究グループは、管路内拍動流中のカプセルの流動を数値シミュレーションによって再現し、拍動周波数やカプセルの膜物性に対するカプセル挙動について大規模な数値解析を実行しました。これにより、カプセルが自身の変形量と背景の拍動周波数に応じて管路断面内の特定の位置に収束することを明らかにしました。本研究によって、管路内拍動流中の球形カプセルが、管路断面内の「どこ」を「どのように」安定して流れるのかを体系化したと言えます。

本知見は、拍動周波数による変形量制御という観点に基づいた、新たな細胞分離技術や細胞検診、創薬スクリーニング技術に応用されることが期待されます。今後は、マイクロ流体デバイスシステムなどを用いて、数値シミュレーションによって見積もられた特異な周波数帯の存在を実験的に立証することや、実際の細胞懸濁液から特定の細胞種が分離可能であることを実証することが課題となります。

本研究成果は、「Journal of Fluid Mechanics」に2025年4月9日(水)に掲載されました。

武石准教授からひとこと

本研究により、流路内の柔軟な粒子の挙動が、従来まで指摘されてきた変形量だけではなく、拍動周波数(周期)にも依存しており、流路内の粒子位置の制御がその周波数の調整によって実現できることがわかりました。今後は、数値シミュレーションで得られたこれらの知見を実験的に立証することや、実際の細胞懸濁液の分離技術として応用することを目指します。

用語解説

(※1) 拍動流
流量が周期的に変化する流れのことを指します。本研究では、定常な流れ場に、周期振動する流れ場を重ねることによって拍動流を表現しています(図2参照)。

(※2) カプセル
本研究では、内部流体が薄い弾性膜で覆われた粒子のことをカプセルと定義します。

(※3) 非定常な流れ
時間的に変化する流れ。

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お問合せ先

工学研究院 武石直樹 准教授

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