老化性神経変性疾患の病態把握への期待
医学研究院
内海健 教授
ポイント
・ミトコンドリアはエネルギー産生を担う細胞小器官であり、老化によりその機能が低下することで神経変性疾患の発症に関与します。
・本研究ではiMPAQT2(※1)を用いて、神経を構成するニューロン(※2)、オリゴデンドロサイト(※3)およびアストロサイト(※4)における代謝特性の違い、そしてミトコンドリア機能障害におけるこれらの細胞の代謝リプログラミングの違いについて明らかにしました。
・オリゴデンドロサイトにおいてミエリン維持に不可欠なプロセスに関わる酵素の発現量が多いことが分かりました。さらにオリゴデンドロサイトはミトコンドリア機能障害に脆弱であることが示唆されました。これらのデータは神経変性疾患の治療法確立につながることが期待されます。
概要
ミトコンドリアはエネルギー産生を担う細胞小器官であり、老化によりその機能が低下することで神経変性疾患の発症に関与します。本研究では最新のプロテオミクス解析手法であるiMPAQT2を用いて、神経を構成するニューロン、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトにおける代謝特性の違い、そしてミトコンドリア機能障害におけるこれらの細胞の代謝リプログラミングの違いについて解析しました。
九州大学大学院医学系学府保健学専攻の谷晃人大学院生、大学院医学研究院保健学部門の八木美佳子助教、内海健教授らの研究チームは、代謝酵素の発現量を比較することによりニューロンとオリゴデンドロサイトは主にエネルギー産生にミトコンドリアの酸化的リン酸化(OXPHOS)(※5)を利用しているのに対し、アストロサイトは主に解糖系(※6)を利用していることを発見しました。そしてオリゴデンドロサイトにおいてコレステロール合成、脂肪酸分解、ヘム分解といったミエリン維持に不可欠なプロセスに関わる酵素の発現量が多いことが分かりました。さらにオリゴデンドロサイトはミトコンドリア機能障害により解糖系代謝、コレステロール合成(※7)、ヘム分解(※8)、脂肪酸分解(※9)の低下が見られ、ミトコンドリア機能障害に脆弱であることが明らかとなりました。
本研究はオリゴデンドロサイトがミトコンドリア機能障害に対して脆弱であることを示しています。今後オリゴデンドロサイトにおける代謝異常のメカニズムを詳しく解析していくことが、神経変性疾患の治療法確立につながっていくと期待されます。
本研究成果は雑誌「Mitochondrion」に2026年5月17日(日)(現地時間)に掲載されました。
研究者からひとこと
本研究は、大学院医学系学府保健学専攻修士課程検査技術科学の学生が2年間にわたり実施した研究成果である。iMPAQT2は絶対定量が可能であるという強みを持ち、細胞間で代謝酵素量を比較するという新しい視点からの解析を可能にした。(内海 健)
用語解説
(※1) iMPAQT2 (in vitro proteome-assisted MRM for Protein Absolute QuanTification Version 2)
…定量プロテオミクス技術。質量分析を用いたタンパク質発現の絶対定量。
(※2)ニューロン
…脳や神経系を構成する神経細胞。
(※3)オリゴデンドロサイト
…脳や脊髄などの中枢神経系を構成するグリア細胞の1つ。神経軸索を覆うミエリン鞘を構成する細胞。軸索の跳躍伝導をサポートする。
(※4)アストロサイト
…脳や脊髄などの中枢神経系を構成するグリア細胞の1つ。神経細胞への栄養供給、神経伝達物質の制御などに関与し神経の維持や恒常性を保つ役割がある。
(※5) 酸化的リン酸化(OXPHOS)(Oxidative Phosphorylation)
…ミトコンドリア内でのエネルギー産生経路。
(※6) 解糖系
…グルコースをエネルギーに変換する代謝経路。
(※7)コレステロール合成
…アセチルCoAから多くのエネルギーを消費してコレステロールは合成される。
(※8)ヘム分解
…ヘムは鉄がポルフィリンと結合したものでミトコンドリア内で生成されるが、不要になると細胞に有害な活性酸素を発生するため直ちに分解される。
(※9)脂肪酸分解
…脂肪酸はミトコンドリア内で分解されエネルギーに変換される。
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