発生と再生に共通する破骨細胞誘導プログラムを発見
生体防御医学研究所
澤 新一郎 教授
ポイント
・骨髄が骨の中に形成される仕組みはこれまで未解明だった
―胎仔期の骨髄形成を開始する新規細胞群を同定―
・骨髄腔形成を支える“破骨細胞(※1)ニッチ”を同定
―RANKL(※2)を発現する複数種類の線維芽細胞が破骨細胞を誘導―
・発生と再生をつなぐ共通原理を発見
―骨折治癒で骨髄形成プログラムが再活性化―
概要
哺乳類の骨の多くは内腔構造を持ち、造血を担う組織である骨髄で満たされています。このような骨の構造は、胎仔期の発生プログラムに従って形成されます。具体的には、身体の大部分の骨は、まず軟骨の原基が形成され、その後、骨および骨髄組織へと置き換わることで形成されることが知られていますが、その詳しい仕組みは十分に解明されていません。
九州大学生体防御医学研究所の澤新一郎教授、住谷瑛理子元助教(現:国立精神・神経医療研究センター)らの研究グループは、「骨髄形成に骨組織固有のマクロファージである破骨細胞が寄与する」との仮説を立てました。本研究では、破骨細胞分化に重要な因子であるRANKLを発現する細胞を蛍光タンパク質により可視化できる遺伝子改変マウスを作成し、さらに一細胞遺伝子発現解析を組み合わせることで、破骨細胞の分化と生存を支持する微小環境の同定を進めました。
その結果、①骨髄腔形成の開始直後(胎齢15日)にRANKLを供給する細胞としてFABP5陽性セプトクラスト(※3)を、②骨髄形成後期(胎齢16日以降)にRANKLを供給する細胞として骨髄ストローマ細胞(※4)を同定しました。さらに、セプトクラスト特異的にRANKLを欠損させたマウスでは骨髄形成が一過性に遅延することから、セプトクラストが骨髄形成初期における破骨細胞誘導に重要な役割を担うことが明らかになりました。一方で、胎齢16日以降には骨髄形成が徐々に回復することから、骨髄は複数のRANKL供給細胞によって段階的に形成されることが示されました。
さらに、成体マウスの大腿骨における骨折治癒過程においても、セプトクラストおよび骨髄ストローマ細胞がRANKLを供給することが確認されました。すなわち、骨折時には胎仔期の骨髄形成と共通するプログラムが再活性化され、誘導された破骨細胞が骨組織の修復・再生に寄与することが示されました。本研究成果は、骨修復の促進や再生医療への応用につながることが期待されます。
本成果は英国の総合科学誌「Nature Communications」オンライン版に2026年4月14日(火)に掲載されました。
研究者からひとこと
RANKL発現細胞の理解は骨研究を進めるうえで重要課題です。本研究では高感度でRANKL発現細胞を可視化できるマウスの作成に成功し、これまで長年の謎であった骨髄形成の仕組みを解明しました。(澤新一郎)
用語解説
(※1) 破骨細胞
骨に特異的に存在する多核のマクロファージ類縁細胞。酸やタンパク質分解酵素を分泌し、不要となった骨組織を分解、吸収、除去する機能をもち、骨の代謝や骨髄腔の維持に重要な役割を果たす。
(※2) RANKL
Receptor activator of nuclear factor kappa B ligand。破骨細胞の分化と維持に必須のタンパク質。
(※3) セプトクラスト
成長中の骨の軟骨と骨髄領域の境界部に存在し、軟骨基質の分解を促進することで軟骨−骨の置換に寄与すると考えられている細胞。
(※4) 骨髄ストローマ細胞
骨髄中に存在する間葉系の間質細胞。造血幹細胞の支持、骨芽細胞への分化などさまざまな機能を有し、骨と骨髄の恒常性維持に重要な働きをする細胞。
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