月への低燃費航行を高速予測

~カオス軌道を“線形モデル”で扱う新手法~

工学研究院
坂東 麻衣 教授

ポイント

・月へ少ない燃料で向かうには複雑なカオス軌道(※1)の利用が鍵となるが、その複雑な運動を直接設計に使うことは難しかった。
・個々の軌道ではなく、軌道の集合がどのように変形するかを直接モデル化する新しい手法を開発。
・これにより効率的な軌道設計が可能となり、将来の月探査や深宇宙ミッションへの応用が期待される。

概要

九州大学大学院工学研究院の坂東麻衣教授らの研究グループは、個々の軌道を長時間の数値積分で追跡するのではなく軌道の集合がどのように変形するかに着目し、カオス軌道の輸送構造をデータから直接抽出する新しい手法を開発しました。月や惑星への宇宙航行では、複数の天体の重力を利用することで燃料を大幅に節約できる「カオス軌道」が知られています。しかし、その複雑な運動を直接設計に活用するための枠組みは十分に整っていませんでした。この方法を用いれば、軌道遷移の幾何構造を行列演算のみで高速に予測できます。さらに、本手法を用いて月遷移軌道の設計にも成功し、実際の軌道設計に応用可能であることを示しました。本成果は、アルテミス時代の月航行を支える基盤の一端を担うことが期待されます。

本研究成果は2026年4月20日に、国際学術誌「Nonlinear Dynamics」に掲載されました。

研究者からひとこと

カオス軌道は一般に長期予測が困難であることで知られています。本研究は、個々の軌道を正確に追い続けるのではなく、「軌道の集合の変形」という観点から構造を捉え直し、複雑な運動を設計可能な形に整理した点に新しさがあります。将来の深宇宙ミッションにおける軌道設計を、より体系的かつ効率的に行うための基盤技術になることを期待しています。

用語解説

(※1)カオス軌道
初期条件のわずかな違いで将来の状態が大きく変わる運動。

詳細

本件の詳細についてはこちら

お問い合わせ先

工学研究院 坂東麻衣 教授

「骨の中に骨髄が生まれる仕組み」を解明

[5/13開催]第230回アジア・オセアニア研究教育機構(Q-AOS)Brown Bag Seminar Series「白亜紀末の恐竜絶滅を引き起こした天体衝突の痕跡と生態系回復の軌跡」

関連記事

  1. 《9/24開催》高等研究院 若手研究者交流セミナ…

    若手研究者によるプレゼンテーションをもとに、特別主幹教授に法的な視点から問題…

  2. 量子キャッチボールの新たな仕組みを解明

    先鋭的理論で解明された3体核力と物質の安定性に関する40年以上の謎基幹教…

  3. フラーレン誘導体が光誘起超核偏極に有用であること…

    -高感度化MRIへの応用に必要な実用化レベルの高偏極率を達成-先導物質化…

  4. 1原子レベルの薄膜で磁気準粒子の磁化ねじれを制御…

    ~大容量・高速・低電力な新規情報端末の幕開け~システム情報科学研究院…

  5. 酸を用いて、プロペラ型分子トリプチセンの開環に成…

    ~有機半導体などに利用されるアセンの新しい合成法として期待~ポイント…

  6. 光が金属の中を突き進む!

    ~ 相対論効果が拓くレーザーイオン加速の新世界 ~ポイント・光が…

  7. ヘテロナノグラフェン構造を用いた高効率・狭帯域青…

    〜 有機EL材料への実用化を目指す 〜 茨城大学の吾郷友宏准教授、九…

  8. 温度センサアレイを高速・低消費電力で読み出す新技…

    生物を参考にしたノイズに強い新規デジタル方式システム情報科学研究院矢…