−将来の肥満・糖尿病予防に期待−
歯学研究院
安河内 友世 教授
ポイント
・妊娠中に追加摂取が推奨されている葉酸が子どもの代謝に与える長期的影響についてはこれまで未解明
・妊娠母体の葉酸不足が子どもの脂肪蓄積に及ぼす影響とそのメカニズムを初めて証明
・妊娠中の栄養管理による次世代の生活習慣病予防に期待
概要
葉酸は神経管閉鎖障害※1の予防に不可欠な栄養素として知られており、日本でも現在、妊婦前から妊娠中にかけて、食事に加えて1日あたり約0.4 mgの追加摂取が推奨されています。しかし、妊娠中の葉酸レベルが、子どもの将来の肥満や代謝疾患リスクにどのような影響を及ぼすかについては分かっていませんでした。
九州大学大学院歯学研究院OBT研究センターの安河内友世教授と福岡歯科大学口腔医学研究センターの平田雅人客員教授ならびに林慶和講師らの研究グループは、シンガポール国立大学ならびに国立台湾大学との国際共同研究で妊娠中の母親の血中葉酸濃度が低いほど、成長後の子どもに肥満が生じやすく、さらに肝臓や筋肉に脂肪が蓄積しやすくなることを初めて明らかにしました。肝臓や筋肉に脂肪がたまる「異所性脂肪」は、インスリンの効きが悪くなるなど、さまざまなエネルギー代謝異常の原因となることが知られています。研究チームは、妊娠母体の葉酸不足による産仔の異所性脂肪蓄積の仕組みも明らかにしました。葉酸は「一炭素代謝※2」とよばれる重要な代謝経路に関わっています。この経路は、アミノ酸のひとつであるメチオニンの代謝や、体内のエネルギー利用システムに深く関係しており、特に肝臓で活発に働いています。妊娠中に母体の葉酸が不足すると、産仔の脂肪組織だけでなく、肝臓や筋肉においても一炭素代謝に重要な役割を担うAmd1(アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ1)遺伝子の発現が低下していました。その結果、脂肪酸を代謝してエネルギーに変えるβ酸化がうまく働かなくなり、各組織で脂肪が燃焼しにくい状態になることが分かりました。
さらに本研究ではシンガポールの出生コホート(GUSTO: Growing Up in Singapore Towards healthy Outcomes※3)のデータを解析しました。その結果、妊娠26週目の母親の血中葉酸濃度が低いほど、子どもが6歳になった時点で肝臓や筋肉に蓄積している脂肪量が多いことが確認されました。なお、これらの母親のほとんどは、妊娠中に葉酸サプリメントを摂取していました。つまり、妊娠中に摂取する葉酸の量だけでなく、実際の血中葉酸濃度を適切に維持することが重要である可能性が示されました。
本研究成果は、2026年2月14日付で国際専門誌「Diabetes Research and Clinical Practice」でオンライン公開されました。
研究者からひとこと
これまで、病気の原因は主に遺伝や出生後の環境にあると考えられてきましたが、出生前(妊娠母体)の環境因子も、病気の発症に影響を及ぼすことが証明されました。今回の研究では、妊娠母体のひとつの栄養素が不足するだけで、子どもが脂肪を溜め込みやすくなることが分かりました。
妊娠前あるいは妊娠中の栄養管理の重要性を医療関係者のみならず、多くの方々に知っていただきたいと思います。
用語解説
(※1) 神経管閉鎖障害
妊娠初期の中枢神経系形成時期に起こる一連の先天性疾患である。脳や脊髄のもとになる神経管が正常に形成されないことで生じる。一定量の葉酸サプリメントを妊娠前〜妊娠初期に内服することでリスクが低減することが分かっている。
(※2) 一炭素代謝
セリン(アミノ酸のひとつ)に由来するひとつの炭素原子が、葉酸代謝経路とメチオニン代謝過程で受け渡されていく代謝経路であり、DNAやアミノ酸の合成、遺伝子の働きを調節する仕組みに欠かせない反応である。
(※3) GUSTO: Growing Up in Singapore Towards healthy Outcomes
シンガポールで行われている大規模な出生コホート(子の誕生前から出生後の成長について長く追跡する研究)である。妊娠中の母親とその子どもたちを紐付けて観察し、どのような環境や生活習慣が将来の健康に影響するのかを明らかにすることを目的として行われている。
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