心臓の拍動を生み出す回路の設計図を解明

~体の左右を決める情報が、心臓の中で背腹方向の位置情報に読み替えられることを発見~

医学研究院
目野 主税 教授

ポイント

・心臓が律動的・協調的に拍動するために不可欠な刺激伝導系(※1)が、なぜ特定の位置に形成されるのかを解明
・臓器の左右非対称性を担う「左右軸」の情報が、心臓形成過程で局所的に「背腹方向の位置情報」に転換されることを発見
・先天性心疾患に伴う重度不整脈の発生機構の理解につながる成果

概要

心臓の拍動は、房室結節 (※2)、房室束 (※3) などからなる刺激伝導系によって制御されています。房室結節や房室束は、発生の途中で心臓の「房室管 (※4)」や「心室間リング (※5)」と呼ばれる領域から形成されることが知られていましたが、なぜ心臓の特定の位置に正確に配置されるのかは長年不明でした。

九州大学病院 心臓外科の城尾邦彦助教、同大学院医学研究院 発生再生医学分野の松岡良平助教、京都府立医科大学大学院医学研究科 生体機能形態科学の八代健太教授、九州大学大学院医学研究院 発生再生医学分野の目野主税教授らの研究グループは、体の左右を決める「左右軸」が、心臓形成の過程で局所的に「背腹方向(頭尾)の位置情報」へと読み替えられることで、刺激伝導系の位置とその連続性が決定されることを、マウスを用いた解析により明らかにしました。本研究は、左右軸という全身的な情報が、心臓内部で局所的な位置情報として再利用される仕組みを示したものです。

左右性の異常を特徴とする先天性心疾患は、刺激伝導系の異常を伴いますが、今回の発見でこの理由が明らかになりました。今後は、様々な刺激伝導系異常に関する理解と再生医療への応用に役立つことが期待されます。

本研究成果は、2026年2月24日付で科学論文誌『JCI Insight』に掲載されました。

研究者からひとこと

田原淳博士が刺激伝導系を発見してから120年が経ちましたが、その発生の仕組みには未解明な点が残されていました。本研究は、刺激伝導系がどのように心臓内の正しい位置に配置されるのかを、発生学的に説明するものです。鍵となるPitx2は、体の左右を決める働きを持つ転写因子で、これまで左側における洞房結節の発達を抑制することが知られていました。本研究により、Pitx2による左右軸情報が心臓形態形成に伴って再解釈され、房室伝導路の配置原理として利用されることが明らかになりました。
(九州大学 目野主税)

用語解説

(※1) 刺激伝導系
心臓の拍動を制御する電気信号の通り道の総称。洞房結節、房室結節、房室束、プルキンエ線維などから構成される。ペースメーカーである洞房結節が生み出した律動的な電気信号を、心房から心室へと正確な順序で伝えることで、心臓の協調的な拍動を可能にしている。

(※2) 房室結節
心房中隔の背側基部に位置する刺激伝導系の一部。心房で発生した電気信号を一時的に遅らせて心室へ伝えることで、心房と心室が順序よく拍動するよう調整している。

(※3) 房室束
房室結節から心室へと電気信号を伝える伝導路。左右の脚に分かれ、心室全体へと刺激を広げる。

(※4) 房室管
発生初期の心臓に存在する心房と心室をつなぐ管状の構造。房室結節などの刺激伝導系が形成される領域を含む。

(※5) 心室間リング
発生初期の左右心室がまだ連続している時期に、原始心室中隔の上縁を取り囲むように存在する輪状の領域。後に房室束など刺激伝導系の一部が形成される。

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