木のナノファイバーで安定化した乳液により免疫活性化・調節に成功

〜樹木由来セルロースナノファイバーを用いた新しい免疫アジュバントに期待〜

農学研究院
北岡 卓也 教授/畠山 真由美 助教

ポイント

・ワクチンや免疫療法の効果を高めるには、安心・安全なアジュバント※1の併用が不可欠
・木質由来セルロースナノファイバー(Cellulose nanofiber: CNF, ※2)を表面化学改質することで、水中油滴型エマルションを調製し、ヒト肝がん細胞やマクロファージにおける免疫応答の活性化・調節に成功
・抗原の高効率担持や、細胞種ごとに異なる免疫応答の誘導も可能で、次世代免疫医療に向けた新規メディカルモダリティとしての応用に期待

概要

感染症対策やがん免疫療法の進展にともない、ワクチンや免疫治療の効果を最大化する「免疫アジュバント」が世界的に注目を集めています。従来のアジュバントは、無機アルミニウム塩や石油由来界面活性剤で安定化したエマルションが多く、より強力かつ安全に免疫を誘導・調節できる新規アジュバントの開発が求められてきました。

今回、木質由来セルロースナノファイバー(CNF)を固体界面活性剤として用いることで、水中油滴型のピッカリングエマルション※3を調製し、ヒト肝がん細胞やマクロファージにおける免疫応答の活性化・調節に成功しました。

湖北大学(中国)の李淇副教授および九州大学大学院農学研究院の畠山真由美助教、北岡卓也教授らの共同研究グループは、本来は免疫活性を持たない木質由来CNFの結晶表面を化学改質することで、極めて安定なエマルションの調製に成功し、免疫応答の増進や抑制が惹起される現象を発見しました。

さらに、このCNF安定化エマルションは抗原を高効率に担持できるだけでなく、細胞種ごとに異なる免疫応答を引き起こすことが可能であり、次世代免疫医療に向けた新規アジュバントモダリティとして大きな可能性を示しました。

今回の成果は、植物由来の安全性の高い天然素材を用いた免疫アジュバント開発に新たな道を拓くものであり、ワクチン開発やがん免疫療法など、幅広い医療分野への応用が期待されます。

本研究成果は、エルゼビア社の学術雑誌「Chemical Engineering Journal」に2026年1月8日(木)にオンライン掲載されました。

研究者からひとこと

本研究は、森の恵みとして得られるセルロースナノファイバーが示す両親媒性に着目し、これを乳化剤として活用することで、免疫を活性化・調節するエマルションの開発に成功したものです。天然の構造多糖は資源量が豊富であるだけでなく、人為的に合成することが不可能です。自然の力を活かしたバイオメディカル研究の新展開に期待が持たれます。(北岡 卓也)
 

用語解説

(※1) アジュバント
抗原単独では十分に誘導されない免疫応答を増強・調節するためにワクチンに添加される免疫賦活剤。近年は、がん免疫治療など治療用ワクチンへの応用も期待されている。

(※2) セルロースナノファイバー(CNF)
樹木や草などの植物の主要成分であるセルロースを、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルサイズまで微細化した天然由来のナノ素材。軽量・高強度・高比表面積・低熱膨張性などの材料特性を持ち、近年ではバイオメディカル素材としても注目されている。

(※3) ピッカリングエマルション
石鹸などの分子状界面活性剤ではなく、ナノサイズの固体粒子を界面安定化剤として用いるエマルション(乳液)。高い安定性を示すことが知られている。

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農学研究院 北岡卓也 教授

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