原子核の分子構造を発見

~ 不安定ベリリウム−10原子核は窒素分子とそっくり ~

概要

 理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター核反応研究部の上坂友洋部長、多種粒子測定装置開発チームの大津秀暁チームリーダー、中国科学院近代物理研究所のペンジー・リー研究員、パリ・サクレー大学イレーヌ・ジョリオ・キュリー研究所のディディエ・ボーメル上級研究員、香港大学のジェニー・リー教授、京都大学理学部の銭廣十三准教授、金田佳子准教授、九州大学大学院理学研究院の緒方一介教授らの国際共同研究グループは、理研の重イオン[1]加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[2]」の多種粒子測定装置「SAMURAIスペクトロメータ[3]」を用いて、不安定なベリリウム−10(10Be、原子番号4)原子核の基底状態[4]では、アルファ粒子二つと中性子二つが窒素分子のように結合していることを発見しました。
 本研究成果は、元素合成過程の理解に大きな影響を与える、原子核内でのアルファ粒子生成機構解明に貢献すると期待されます。
 今回、国際共同研究グループは、RIBFで生成された10Be原子核ビームに対し、ノックアウト反応[5]という手法を用いてアルファ粒子を取り出すと同時に、取り出した後に残る原子核をSAMURAIスペクトロメータによって同定しました。この結果を最先端の核構造理論および核反応理論と比較することで、10Be原子核が、二つのアルファ粒子と分子軌道を占有する中性子から成る分子構造を持つことを明らかにしました
 本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(11月21日付)に掲載されました。

用語解説

[1] 重イオン
原子が電子を失う、または得ることにより電荷を持ったものをイオンといい、このうち、リチウムもしくは炭素より重い元素のイオンを重イオンという。イオン源により原子から電子を剝ぎ取ると、原子核の陽子数に比べて電子の数が少なくなり、全体としてプラスの電荷を持つ。すると、加速器で電気的に加速することが可能となる。
[2] RIビームファクトリー(RIBF)
水素からウランまでの全元素のRI(Radioactive Isotope:放射性同位元素)を世界最大強度でビームとして発生させ、それを多角的に解析・利用することにより、基礎から応用にわたる幅広い研究と産業技術の飛躍的発展に貢献することを目的とする次世代加速器施設。施設はRIビームを生成するために必要な加速器系、RIビーム分離生成装置(BigRIPS)で構成されるRIビーム発生系施設、および生成されたRIビームの多角的な解析・利用を行う基幹実験装置群で構成される。これまで生成不可能だったRIも含めて約4,000種類のRIを生成できると期待されている。
[3] SAMURAIスペクトロメータ
大型超伝導双極電磁石と、原子核反応を観測するための多様な検出器群から構成される。RIビームがターゲットと反応して発生した多種粒子の種類や運動量、軌跡を同時に測定することで、原子核の構造や反応を研究する。特に中性子検出器NEBULAにより、反応前方に放出される複数の高エネルギー中性子を検出・分析できるという特長を持っている。
[4] 基底状態
原子、分子や原子核においてエネルギーが最も低く、最も安定な状態。
[5] ノックアウト反応
高エネルギーで粒子と原子核を衝突させ、原子核から陽子や中性子などをたたき出す反応。反応粒子としては、陽子や電子が用いられることが多いが、今回の実験では陽子を用いた。

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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