⽢味を感じる分⼦の構造変化の予測に成功

~ ⽢味や⾎糖値をコントロールする物質の開発に期待 ~

ポイント

・⼝の中や全⾝の様々な臓器で機能する⽢味受容体の活性化・不活性化の過程は不明でした。
・⽢味受容体の活性化・不活性化に伴う構造変化の予測に成功しました。
・⽢味受容体を標的とした⽢味や⾎糖値をコントロールする物質の開発が期待されます。

概要

 ⽢味受容体は、⼝の中だけでなく、腸管では糖吸収に関与するなど全⾝の様々な臓器で糖を検出し、⽣体のエネルギーセンサーとして重要な役割を担っています。しかしながら、⽢味受容体がどのような構造変化を経て活性化・不活性化するか、その動的なメカニズムはこれまで不明でした。
 九州⼤学⼤学院⻭学研究院の實松敬介講師、重村憲徳教授らの研究グループは、⽢味受容体サブユニットTAS1R3 の膜貫通ドメインの活性化・不活性化過程の構造予測に成功しました。
 本研究グループは、分⼦動⼒学シミュレーション(※1)と⼈⼯味細胞による受容体機能解析(※2)を⽤いて、TAS1R3 の膜貫通ドメインと⼈⼯⽢味料や⽢味抑制物質との相互作⽤について調べました。細胞膜に存在する受容体が活性化する際に、細胞膜外側における⼈⼯⽢味料と結合サイトでの相互作⽤が、受容体内の相互作⽤を引き起こします。それにより、結合サイトとは離れた細胞内側に存在する⽔素結合を切断することで、シグナル伝達が進む可能性が⽰唆されました。この予測は、⼈⼯味細胞を⽤いた機能解析により強く⽀持されました。また、⼈⼯⽢味料サッカリンの結合部位のヒスチジン残基がpH感受性のマイクロスイッチとして機能し、サッカリンに対する感受性がpH により調節されることを明らかにしました。
 本研究から、⼝の中や全⾝で機能する⽢味受容体を標的にした⽢味や⾎糖値をコントロールする物質の開発が期待されます。また、⽢味受容体が属する他のG タンパク質共役型受容体(※3)の動的活性化機構の予測において、重要な知⾒を提供します。
 本研究成果は英国の雑誌「Communications Biology」に2023年4⽉3⽇(⽉)18時(⽇本時間)に掲載されます。

用語解説

(※1) 分⼦動⼒学シミュレーション
原⼦・分⼦の動きを計算機中で再現するシミュレーション⽅法。⽢味受容体−作⽤物質複合体を脂質膜中に埋め込み膜の内外にイオンと⽔を配置したシミュレーションボックスを作成します。ボックス内の全ての原⼦にニュートンの運動⽅程式を⽴てます。微⼩時間であれば、運動⽅程式を解くことが可能になり、微⼩時間後の各原⼦の位置や速度が分かります。これを繰り返すことで、原⼦・分⼦が動いていく過程が再現できます。
(※2) ⼈⼯味細胞による受容体機能解析
⽢味受容体遺伝⼦を培養細胞に導⼊することで、⽢味受容体を発現させます。発現細胞の細胞内カルシウム濃度を測定することで、⽢味応答が調べることが可能です。また導⼊する遺伝⼦をデザインすることで、受容体の機能を調べることができます。
(※3) G タンパク質共役型受容体
Gタンパク質共役型受容体は主に細胞質膜に存在するシグナルを伝達する受容体の⼀種であり、7回膜貫通型構造を有します。神経伝達物質、ホルモン、嗅物質、フェロモン、光、味覚などの様々な細胞外シグナルを受容すると、構造変化を起こし、細胞質側に結合しているG タンパク質にシグナル伝達を⾏います。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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