電気化学発光分野の新展開!

~ 蛍光色素に防護具(プロテクター)を装着し、驚異的な発光強度増強を実現 ~

ポイント

・有機物の蛍光色素に分子レベルで防護具(プロテクター)を装着させる電気化学的な手法を開発し、発光強度を最大で156 倍まで向上させることに成功しました。
・分子レベルの防護具が、鍵となる色素の中間体を安定化し、副反応に伴う分解を抑制するメカニズムを明らかにしました。
・本研究は、有機色素材料の開発に新たな設計指針を与え、次世代の臨床診断用医薬品やディスプレイなどの応用展開が期待されます。

兵庫県立大学大学院理学研究科の田原圭志朗助教(現 香川大学創造工学部准教授)、池田貴志大学院生、阿部正明教授、九州大学大学院工学研究院の石松亮一助教、小野利和准教授らの研究グループは、有機色素の新しい化学修飾の手法を開発し、電気化学発光を飛躍的に向上させることに成功しました。本研究成果は、2023 年3 月6 日に、ドイツ化学会の国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。また、同誌で高い評価を受け、Front Cover に採択されており、後日公開される予定です。

概要

 発光には、フォトルミネッセンス、化学発光、電界発光など様々なタイプがありますが、電気化学発光(Electrochemiluminescence、ECL)は、電極表面での電気化学反応を利用します。ECL は、励起光を使うことなく簡便に、時間的・空間的に制御された形で発光を生成できます。これらの利点を活かし、溶液やゲルを反応媒体とするユニークな照明や、臨床診断用の免疫測定法などの開発が進められています。これまでECL 材料として、ルテニウムや白金などの金属錯体が用いられてきましたが、原料の安定供給や低コスト化の観点から、貴金属を含まない純有機物が注目されています。しかし、有機ECL 材料のボトルネックとして、電気化学的に生成させた中間体の安定性が一般的に低く、ECL を発する前に分解してしまうという問題がありました。このため、有機ECL 材料の中間体の分解を防ぐことが、本分野の重要な課題となっていました。
 本研究では、有機物の蛍光色素に分子レベルで防護具(プロテクター)を装着させる電気化学的な手法を開発しました(図1a)。具体的には、有機ホウ素化合物のトリスペンタフルオロフェニルボラン(TPFB)を防護具に選択し、ルイス酸として働くTPFB は、ルイス塩基として働く蛍光色素と、溶液中で混ぜるだけで結合しました。このルイスペアの形成を利用して防護具を装着させることで、蛍光色素のシリーズのECL 強度を最大で156倍にまで向上させることに成功しました(図1b)。有機色素の中間体同士での副反応を制限し、色素の分解を抑制できるメカニズムを、詳細な測定から明らかにしました。
 元々TPFB は、触媒やフォトルミネッセンスなど、様々な分野で用いられる嵩高いルイス酸として有名でした。以前から、他のグループによって、TPFB がフォトルミネッセンス分野で発光の増強効果を示すことが報告されていました。しかし本研究は、TPFB の新たな用途として、ECL 分野での利用を拡大したと言えます。電極表面での一連の電気化学反応を経るため、ECL 生成過程は、フォトルミネッセンスに比べ、複雑かつ難易度が高くなります。これまでECL 分野では、熱活性化遅延蛍光、凝集誘起発光などの知見を参考に、励起状態から発光効率を高めることに主眼が置かれていました。本研究では、より重要な励起状態への移行過程を高効率化することができる防護具(プロテクター)のアイデアを採用しました。
 本研究における別の重要な発見として、TPFB は固体中で有機色素の配列の制御にも役立つことが分かりました。有機半導体のユニットを含む有機色素をTPFB とペアで組み合わせることで、有機半導体ユニットが一次元状に配列しました(図1c)。電極表面に修飾した結晶性薄膜がECL を生成し、その超分子構造を反映して長波長側にシフトしました。これは、有機エレクトロニクス分野と電気化学分野の両方で検討されてきた、有機半導体の電気伝導特性と有機色素のECL 特性を組み合わせた新しい発見となります。
 本研究で実証された電気化学的な防護具(プロテクター)のアイデアは、ルイスペアに限らず、クリックケミストリーなどの様々な事後修飾でも検討する価値があります。ECL分野では、円偏光発光や近赤外発光に関する研究も急速に進展しています。これらの技術と本研究の知見を融合させることで、次世代の臨床診断用医薬品やディスプレイなどの実用化に向けた材料開発が加速することが期待されます。

詳細

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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