~「砂の物質分析チーム」の論文が「Nature Astronomy」に掲載されました~
概要
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)では小惑星リュウグウ試料分析を、6 つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」および、2 つの「Phase-2 キュレーション機関」にて進めています。
この度「はやぶさ2初期分析チーム」のうち、理学研究院・奈良岡浩教授と薬学研究院・浜瀬健司教授が参加する「可溶性有機物分析チーム」の研究成果をまとめた論文が、アメリカの科学誌「Science」に2023年2月24日付(日本時間)で掲載されましたのでお知らせします。
ポイント
・小惑星リュウグウの表面から採取された試料を溶媒抽出することにより、メタノール抽出溶液をイオン化して超高分解能質量分析したところ、炭素(C)と水素(H)、 窒素(N)、 酸素(O)、 イオウ(S)を含む組成からなる有機分子が約2万種含まれていた。
・クロマトグラフィーを用いて、アミノ酸やカルボン酸、アミンのほかに芳香族炭化水素類などが検出された。とくに、メチルアミンや酢酸のような揮発性の高い小さな有機分子が存在することは、リュウグウ表面ではこれらの分子が塩として安定して存在していることを示す。
・地球生命が用いるタンパク性アミノ酸(アラニンなど)のほか、非タンパク性アミノ酸(イソバリンなど)が見つかったが、左右構造を持つアミノ酸はほぼ1:1で存在し、非生物な合成プロセスを示す。
・炭化水素としてはアルキルベンゼンや多環芳香族炭化水素であるナフタレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテンなどが主に存在した。これらの存在パターンは地球上の熱水原油のパターンと似ており、リュウグウ母天体上で水の影響を受けていたことが示唆される。
・試料表面をメタノールでスプレーしてその場分析すると、異なる有機分子が異なる空間分布で存在しており、リュウグウ母天体上で、流体と鉱物との相互作用の中で、有機化合物が移動・分離した可能性が示唆された。
・小惑星表面からはいろいろな過程で物質が宇宙空間に放出されることが観察されており、リュウグウ表面の有機分子が他の天体に運ばれる可能性がある。また、リュウグウなどの小惑星表面は炭素資源としても利用できることを示している。