原子時計は「時間」の重ね合わせを明らかにできるのか?

超高精度の原子時計が時間の量子的な性質を観測できる可能性をもつ新理論

高等研究院
フー・ジョシュア 准教授

ポイント

・時間の本質は、物理学における最も深遠な問いの一つです。しかし、相対論的な時間の理解と量子物理学との相互作用は、これまで実験的に観測されたことがありませんでした。
・単一の原子において「時間の量子重ね合わせ」が現れ得ることを明らかにし、アインシュタインの古典的な相対性理論を超える観測可能な効果が生じることを示しました。
・原子時計を用いて時間の量子的性質を実験的に探る新たな道を切り拓き、基礎物理学と超高精度時刻計測の双方に革新をもたらす成果です。

概要

 時間の本質は、物理学における最も根源的な問いの一つです。本研究成果はこれまで検出が不可能と考えられてきた「時間の量子的性質」が、最先端の原子時計によって観測可能な段階に近づいていることを示しました。
 相対性理論によれば、時間の流れは時計の運動や重力の影響を受けます。これに対し量子論は、「時計が量子力学に従う場合、異なる経路の重ね合わせ状態として存在でき、その結果として時間も重ね合わせ状態になる」という新たな視点を加えます。
 本研究では、九州大学高等研究院稲盛フロンティアプログラムのジョシュア・フー准教授の研究グループと、米国コロラド州立大学のクリスチャン・サナー助教、米国国立標準技術研究所(NIST)のディートリッヒ・ライプフリート博士及びスティーブンス工科大学のガブリエル・ソルチ博士、イゴール・ピコフスキー助教とで共同研究を行いました。その結果、単一の原子において「時間の重ね合わせ」が理論的に現れ得ることを示し、原子時計の運動を制御する新たな技術により、アインシュタインの古典的相対性理論を超えた新しい効果に対する感度を、従来の100~1000倍に向上できることを明らかにしました。
 原子時計は、GPSをはじめとする現代技術を支え、「秒」の定義にも用いられている、人類史上最も精密な時刻計測装置です。本研究は、原子時計を「時間の量子的性質」を探究するための新たな実験基盤として位置づけるものであり、基礎物理学における新しい実験フロンティアを切り拓く成果です。また、次世代原子時計のさらなる高精度化につながる可能性も期待されます。
 本研究成果は、4月20日(月)(現地時間)に米国物理学会(American Physical Society)が発行する学術誌 Physical Review Letters に掲載されました。

研究者からひとこと

原子時計はすでに多くの分野で実用化されており、社会のさまざまな場面で活用されています。今回の研究により、原子時計が相対性理論と量子力学が交差する領域における基礎物理の探究にも、新たな可能性をもたらすことが示されました。(フー・ジョシュア)

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