量子のだるま落としで原子核を探るプロジェクトから初成果

-炭素、酸素原子核に重陽子クラスターを発見-

理学研究院
緒方 一介 教授

概要

理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター核反応研究部の上坂友洋部長、久保田悠樹研究員、京都大学大学院理学研究科の銭廣十三准教授、辻崚太郎大学院生(研究当時)、大阪大学核物理研究センターの田中純貴助教、九州大学大学院理学研究院の緒方一介教授らの国際共同研究グループは、炭素12および酸素16という原子核の中に、陽子1個と中性子1個のペアが固まりになった重陽子クラスター[1]が、従来考えられていた以上に高い確率で存在することを発見しました。

原子核の内部では陽子と中性子がバラバラで一様に配置された液滴のような構造と考えられてきましたが、その一方、小さな固まり(クラスター)が存在する可能性(非一様性の発現)が示唆されていました。そこで、陽子を衝突させ核内部から「だるま落とし」のように粒子をたたき出すノックアウト反応[2]を利用して内部構造を調べる「おのころプロジェクト[3]」をスタートさせました。

国際共同研究グループは、「おのころプロジェクト」の初の成果として、陽子ビームにより炭素12および酸素16原子核から重陽子を取り出す実験を実施し、重陽子クラスターが少なくとも30~40%以上の確率で存在することを明らかにしました。今回の成果は、原子核がどのような形で存在しているかという問いに対する新しい発見であり、安定性の起源やアルファ崩壊[4]の理解に貢献すると期待されます。「おのころプロジェクト」からは、アルファ・クラスター[5]や三重陽子クラスター[6]、ヘリウム3クラスター[6]に関する新たな実験データも得られており、原子核における非一様性が従来考えられていたよりはるかに多様な形で、かつより高い確率で発現している兆候が捉えられています。

本研究は、科学雑誌『Progress of Theoretical and Experimental Physics』オンライン版(5月1日付)に掲載されました。

補足説明

[1] 重陽子クラスター
重陽子は、陽子と中性子おのおの1個より成る最小の原子核。陽子二つや中性子二つと比べると安定であり、その安定化機構が一般の原子核の安定化機構と共通していると考えられている。原子核中の陽子と中性子が重陽子の固まりとなり、原子核の構成要素の一部となったものを重陽子クラスターという。

[2] ノックアウト反応
原子核に高エネルギーの陽子や電子を衝突させ、原子核内部から粒子を叩き出すことにより、粒子の存在確率やその性質を調べる研究手法。ここ数年、ハロー核での中性子対相関研究注1)、テトラ中性子核生成注2)、原子核の分子構造研究注3)など、原子核の最先端研究で用いられている。
注1)2020年12月17日プレスリリース「リチウム-11ハロー核内での中性子対相関に新たな発見」
     https://www.riken.jp/press/2020/20201217_2/
注2)2022年6月23日プレスリリース「4個の中性子だけでできた原子核を観測」
     https://www.riken.jp/press/2022/20220623_1/
注3)2023年12月6日プレスリリース「原子核の分子構造を発見」
     https://www.riken.jp/press/2023/20231206_1/

[3] おのころプロジェクト
2021年に開始した、ノックアウト反応を用いて原子核のクラスター構造を研究するプロジェクト。プロジェクト名の「おのころ」は古事記にある国生み神話から採られている。

[4] アルファ崩壊
不安定原子核が自発的にアルファ粒子(ヘリウム4原子核)を放出して、陽子数と中性子数がそれぞれ二つ少ない原子核に変わる、放射性崩壊の一種である。アルファ崩壊は核内に生成されたアルファ粒子が量子トンネル効果で原子核外に出る現象と解釈されている。

[5] アルファ・クラスター
原子核の中で、陽子二つと中性子二つがアルファ粒子を形づくり、原子核の構成要素の一部となったものをアルファ・クラスターと呼ぶ。

[6] 三重陽子クラスター、ヘリウム3クラスター
三重陽子は、トリチウムの原子核であり、陽子一つと中性子二つより成る。原子核の中で、陽子一つと中性子二つが三重陽子を形づくり、原子核の構成要素の一部となったものを三重陽子クラスターと呼ぶ。ヘリウム3はヘリウム同位体の一つであり、陽子二つと中性子一つより成る。原子核の中で、陽子二つと中性子一つがヘリウム3を形づくり、原子核の構成要素の一部となったものをヘリウム3クラスターと呼ぶ。

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