水や酸が分解を加速する仕組みを理論計算で解明
先導物質化学研究所
塩田淑仁 准教授
ポイント
・接着剤や電子部材に広く使われるエポキシ樹脂(※1)の劣化原因を分子レベルで解明
・水や酸性環境によって分解が大きく加速する理由を理論計算で定量的に示した
・材料の長寿命化設計や樹脂リサイクル技術への応用に期待
概要
エポキシ樹脂は次世代モビリティなど多様な分野で重要な材料ですが、水分や酸による経時劣化が課題となっています。こうした背景のもと、九州大学を中心にJST未来社会創造事業「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」のプロジェクトが進められています。本研究はその一環として、分子レベルでの劣化の起点を解明し、次世代モビリティを支える基盤技術の発展に貢献します。
本研究では、エポキシ樹脂が劣化する仕組みを、コンピュータを用いた理論計算(※2)によって分子レベルで解明しました。特に、水や酸の存在によって、樹脂内部の化学結合が切れやすくなり、劣化が大きく加速することを明らかにしました。
九州大学先導物質化学研究所の塩田淑仁准教授と京都大学福井謙一記念研究センターの吉澤一成研究員(九州大学名誉教授)の研究グループは、エポキシ樹脂を構成する主要な化学結合に着目し、コンピュータを用いた理論計算によって、結合切断に必要なエネルギーを調べました。その結果、水が関与すると反応が起こりやすくなり、酸性環境では結合切断に必要なエネルギーが半分以下になることが分かりました。
本研究成果は、樹脂の長寿命化につながる分子設計指針や、高耐久材料の開発、リサイクル技術の高度化に貢献する重要な知見です。エポキシ樹脂の信頼性向上と、環境負荷低減への応用が期待されます。
本研究成果は、米国化学会誌 Journal of Physical Chemistry B に掲載されました。(掲載日:2026年4月15日/日本時間)
研究者からひとこと
「エポキシ樹脂は、私たちの身の回りで当たり前のように使われていますが、『なぜ時間がたつと性能が落ちるのか』は、意外と分かっていませんでした。今回、コンピュータを用いた理論計算から見えない分子の世界で何が起きているのかを示すことができました。この知見が、材料をより長く安全に使うための設計や、将来のリサイクル技術につながることを期待しています。」(塩田淑仁)
用語解説
(※1) エポキシ樹脂
化学反応によって硬化する合成樹脂の一種。強い接着力、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れ、接着剤、塗料、電子材料、複合材料などに広く用いられます。
(※2) コンピュータを用いた理論計算
シュレディンガー方程式をコンピュータで数値的に解くことで、分子内の電子のふるまいを明らかにする方法、量子化学計算とも呼ばれます。
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