発光技術と医療をつなぐ次世代有機材料を開発

~生体に優しい近赤外レーザーで光る新素材が、有機ELと医療応用の架け橋に~

工学研究院
安達 千波矢 教授 / 千歳 洋平 助教

ポイント

・熱活性化遅延蛍光(TADF, ※1 )と2光子吸収※2 は分子設計の要件が正反対で、単一分子での両立は極めて困難とされていた
・吸収と発光過程で異なる軌道特性をもつ分子構造を精密に設計することで、TADFと2光子吸収を単一分子で両立し、そのメカニズムを理論計算と実験の両面から解明
・医療用蛍光プローブやOLEDなどへの応用が期待され、ライフサイエンスとエレクトロニクスを橋渡しする新たな材料開発につながる

概要

九州大学大学院工学研究院の安達千波矢教授、千歳洋平助教、国立台北科技大学の林家弘教授らの研究グループは、近赤外レーザーによって光る新しい有機分子を開発し、それを有機EL(OLED)としても高効率に発光させることに成功しました。今回開発された分子は、「熱活性化遅延蛍光(TADF)」と、近赤外レーザーによって効率的に励起される「2光子吸収」という、通常は両立が難しい2つの光機能を単一分子内で実現した点で、非常に画期的です。これらの特性は従来、個別に研究されてきましたが、本研究では分子設計により両者を高度に両立させ、その発現メカニズムを理論計算と実験の両面から明らかにしました。両機能を同時に発現しつつ、応用展開まで示した例は世界的にもほとんど例がありません。

今回開発した分子は、700~900 nmの近赤外光を2光子で吸収し、明るい可視光発光を示します。また、有機EL材料として用いた場合でも、外部量子効率13.5%という優れた性能を示しました。これにより、従来は用途ごとに個別に設計されていた材料を、1つの分子で多機能的に活用できる可能性が拓かれ、材料設計の効率化やコスト削減にも大きく貢献すると期待されます。さらにこの材料は、金属を一切含まない純粋な有機分子で構成されており、細胞毒性が低く、生体適合性にも優れています。そのため、近年注目されている医療用蛍光プローブやがんの高精度診断といった応用にも適しており、今後の医療現場での活用が期待されます。本研究成果は、国際学術誌「Advanced Materials」に2025年7月30日(水)午前7時(日本時間)までに公開されました。

研究者からひとこと

TADFと2光子吸収という本来両立が難しい光機能を、1つの分子で実現できたときの感動は忘れられません。吸収と発光で役割を切り替える“機能分離”の発想が鍵となりました。この成果が有機ELの高性能化だけでなく、がん診断や生体イメージングといった医療技術や、最先端デバイスへの応用にも繋がることを期待しています。 
(九州大学大学院工学研究院 千歳 洋平)

用語解説

(※1) 熱活性化遅延蛍光(TADF)
分子が外部からのエネルギー(励起子)を一度蓄えたのち、熱の力で再び光として放出する現象。2012年に九州大学の安達千波矢教授が、高効率に発光するTADF材料を開発し、有機ELの発光材料として世界中で注目されるようになった。

(※2) 2光子吸収
通常の物質は1つの光子を吸収して励起される(1光子吸収)。これはLEDのような弱い光でも起こるが、近赤外光ではエネルギーが不足し、分子を励起することができない。これに対し、2光子吸収では、分子が2つの光子を同時に吸収して励起される。この現象には、レーザーのような強い光が必要であるが、近赤外光でも分子の励起が可能となるため、深部組織への光の到達が可能になり、バイオイメージングや光治療など、体の内部を非侵襲的に観察・操作する医療応用が期待されている。

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工学研究院 安達千波矢 教授

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