ロジウムを凌駕する高耐久性な多元素ナノ合金排ガス浄化触媒

―地金価格9割カットでNOx還元高活性と高耐久性の両立を実現―

 京都大学大学院理学研究科 北川宏 教授、草田康平 同特定助教(研究当時、現:京都大学白眉センター特定准教授)、信州大学先鋭領域融合研究群 先鋭材料研究所 古山通久 教授、名古屋大学大学院工学研究科 永岡勝俊 教授、九州大学大学院工学研究院 松村晶 教授らの研究グループは、自動車排ガス(1)浄化に対して最も高い性能を有するロジウム(Rh)を凌駕する、高耐久な多元素ナノ合金触媒の開発に成功しました。Rhは産業上極めて重要な戦略元素であり、窒素酸化物(NOx)(2)を唯一浄化できることから、産出量の9割以上が自動車の排ガス浄化用触媒に使用されています。しかしながら、昨今の世界的な自動車排ガスのさらなる規制強化(ユーロ6からユーロ7(3)へ)のために、稀少なRhの需要が非常に高まり、2021年1月には過去最高の1グラム約76,000円を記録しました。このような背景の下、自動車工業界では、より安価でRhに匹敵する性能を持つ新しい物質の開発が強く求められています。本研究グループは過去にRhよりも資源量が豊富なパラジウム(Pd)とルテニウム(Ru)を初めて原子レベルで混ぜることに成功し、自動車排ガスの主成分であるNOxの浄化に対する触媒活性がRhを凌駕することを発見しました。しかし、このPdRuナノ合金は高温下での排ガス浄化反応では構造が崩れ、活性劣化を引き起こすことが問題でした。今回、このPdRuに第3の元素を加えることで配置エントロピー(4)を増大させ、高温での固溶体(5)構造を安定化させた種々のナノ合金の開発に成功し、PdRuイリジウム(Ir)ナノ合金がPdRuおよびRhよりも高活性かつ、高耐久性であることを発見しました。
 本成果は、2021年3月10日に独国の国際学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載されました。また、物質基本特許として「多元系固溶体微粒子及びその製造方法並びに触媒(国際出願番号PCT/JP2017/008058)」を出願中(US登録済:登録番号10639723)(出願人:京都大学)で、現在、複数の自動車・自動二輪製造メーカーと共同研究を進めています。

用語解説

(1)自動車排ガス:自動車の走行に伴って排出されるガスです。窒素酸化物(注2)、一酸化炭素、未燃焼の燃料などを含みます。大気汚染などの環境問題を引き起こす原因となるため、排出が厳しく規制されており、規制値を満たさない車両は登録、販売ができません。
(2)窒素酸化物(NOx):エンジン内で燃料が燃焼する過程で、燃料中の窒素や空気中の窒素と酸素が高温に曝されることで発生します。NOx(ノックス)とも称されます。光化学スモッグや酸性雨の原因となり、人体に対しても有害です。
(3)ユーロ 6、ユーロ 7:欧州で施行されている自動車排ガス規制の総称で、世界で最も厳しい基準として、他国でも参考にしている影響力が大きい基準です。現在はユーロ 6 が適用されていて、次の規制としてユーロ7(仮)が 2023~2024 年に開始することが有力視されています。
(4)配置のエントロピー:統計力学において、系のエントロピー(乱雑さ)のうち、構成粒子の離散的な代表位置に関連する部分です。例えば、合金中で原子が詰め込まれるやり方の数などを指します。

詳細

こちらをご参照ください。

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