精子を作る波の向きはどう決まる?

精子を作る管の成長が鍵となる可能性を示す ― 男性不妊や生体パターン形成理解に貢献の可能性 ―

医学研究院
杉原 圭 助教

ポイント

・精子は精細管(※1)の中で波状に作られ、その波の向きは途中で変わるが、その仕組みは不明だった
・数理モデルと大規模なシミュレーションにより、発達時の精細管の伸びが波の向きを自然に決める可能性を示した
・男性生殖機能の基礎理解と応用研究にも期待

論文情報

哺乳類の精子は、精巣の中にある精細管で作られます。マウスでは、精子のもととなる細胞の成熟段階が管に沿って並び、波状に精子が管の両端から内側に進むことが知られていました。そのため、必ずどこかで波の向きが切り替わります。しかし、波の向きが途中で切り替わる場所がどのように生じるのか、また、なぜ両端から内向きに進むのかは分かっておらず、その仕組みの解明が求められていました。

今回、本研究グループは、この精子形成(※2)の波の向きの切り替わりが、数理モデルの中で安定して生じることを示すとともに、発達時の管の伸びが向きを内向きに揃える可能性を解明しました。

九州大学大学院医学研究院の杉原圭助教、三浦岳教授、明治大学総合数理学部の関坂歩幹助教、小川知之教授の研究グループは、マウス精細管における精子形成の波の作られ方を表す反応拡散モデル(※3)を改良し、大規模な計算機シミュレーション(※4)を行いました。その結果、波の向きが途中で切り替わるパターン自体は生体に近い条件で高頻度に現れる一方、両端から内向きに進むという特徴は、精細管が発達時に伸長する条件を加えたときに最もよく説明できることを明らかにしました。さらに、長い精細管ほどこのような複雑な波パターンが現れやすく、局所的に生じた一方向の波が基本単位となって全体の構造を形成する可能性を提案しました。

今回の成果は、精子形成がどのように時空間的な秩序を保って起こるのかを理解する手がかりとなるものです。今後、精細管の成長過程や波の実際の動きを詳しく計測することで、男性生殖機能の基礎理解や、精子形成異常の仕組みの解明につながることが期待されます。

本研究成果は国際学術誌『Mathematical Biosciences』に2026年3月26日(木)に掲載されました。

研究者からひとこと

波ができる管の伸長という変化そのものが、その波の向きまで決めてしまう可能性があるという結果は、予想外の結果でした。生物の詳しい分子メカニズムが分かっていない現象でも、数理モデリングによってその原理に迫れることは大きな魅力だと感じています。また、この現象が数学的になぜ現れるのかも興味深いです。(杉原 圭)

用語解説

(※1)精細管
精巣の中で精子が作られる管状構造。

(※2)精子形成
精子のもとになる細胞が分裂・分化を繰り返し、成熟した精子になるまでの過程。

(※3)反応拡散モデル
物質や状態が、その場での相互作用(反応)と空間的な広がり(拡散)によって、時間とともにどのようなパターンを作るかを表す数理モデル。生物の模様や周期的な現象の解析によく用いられる。

(※4)シミュレーション
コンピューター上で現象を再現・解析する手法。実験だけでは調べにくい条件の違いや長期的な変化を検討できる。

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