遺跡の土壌から過去の人のDNAが明らかに

―古人骨の周囲の土壌にはその人のDNAも含まれる―

比較社会文化研究院
澤藤 りかい 講師

ポイント

・古人骨のDNA分析は、過去の人々の移動や拡散の歴史を明らかにしてきました。しかし現状では、骨の保存状態が良い地域に分析対象が偏っており、日本のような高温多湿や酸性土壌の地域では、骨が分解されて残らないケースが多く、遺伝情報の解析が困難でした。
・本研究では人が埋葬された場所(埋葬遺構)と人が住んでいた場所(竪穴住居)の土壌からDNAを抽出し、特に古人骨周辺の土壌にその人骨のDNAが含まれることを世界で初めて明らかにしました。
・今後、骨が分解されて存在しないような埋葬遺構の土壌にこの手法を適用することにより、骨がなくても当時の人々の遺伝情報を明らかにできる可能性があります。また、文化財保護や倫理の観点から古人骨自体のDNA分析が難しい場合でも、土壌に含まれるヒトDNAを分析することで代替できる可能性を示唆しました。

概要

九州大学大学院比較社会文化研究院の澤藤りかい講師やコペンハーゲン大学のMikkel W. Pedersen助教などの国際共同研究グループは、遺跡の土壌からDNAを抽出・分析し、特に古人骨の周辺土壌にその人に由来するDNAが含まれることを世界で初めて明らかにしました。

古人骨のDNA分析は、過去の人々の移動や拡散の歴史を明らかにしてきました。しかし現状では、骨の保存状態が良い地域(ヨーロッパなど冷涼・乾燥した環境)に分析対象が偏っており、日本や東南アジアのような高温多湿や酸性土壌の地域では、骨が分解されて残らないケースが多く、遺伝情報の解析が困難でした。近年、古代DNA解析技術の進展により、ネアンデルタール人やデニソワ人(※1)、ホモ・サピエンスが住んでいた洞窟遺跡の土壌に、その当時住んでいた人々のDNAが含まれることが明らかになってきました。このような手法は革新的なものですが、そのDNAが何に由来するかなど、基礎的な検討が行われないまま研究が進められてきていました。

図1

本研究では、遺跡のどのような地点に当時の人のDNAが多く含まれるか調べるため、人が埋葬された場所(埋葬遺構)として沖縄県の勝連城跡から発掘された古人骨周辺の土壌と、人が住んでいた場所(竪穴住居)として北海道の北見市大島2遺跡5号竪穴の土壌を採取し、DNAを抽出・解読しました。埋葬遺構に関しては、古人骨自体からもDNAを抽出し、古人骨と周辺土壌から得られるヒトDNAが一致するかも確認しました。その結果、埋葬遺構の土壌からはヒトDNAが検出される一方で、竪穴住居からはほとんどヒトDNAが検出されないことが判明しました。さらに、古人骨のミトコンドリアDNAと、その古人骨周辺の土壌から得られたミトコンドリアDNAのタイプが2個体でどちらもそれぞれ一致し、古人骨周辺の土壌にはその人骨に由来するDNAが含まれることを明らかにしました(図1)。

今後、骨が分解されて残っていないような埋葬遺構の土壌にこの手法を適用することで、骨が残っていなくても、埋葬されていた人の遺伝情報を明らかにできる可能性があります。また、文化財保護や倫理の観点から古人骨のDNA分析が難しい場合でも、土壌に含まれるヒトDNA分析がその代替となる可能性を示唆します。

本研究は国際的な学術雑誌「Journal of Archaeological Science」に2026年3月17日(火)に掲載されました。

研究者からひとこと

遺跡の土壌は発掘されたら通常捨てられてしまいますが、実は宝の山かもしれません。様々な手法を組み合わせて過去の人々を調べる際に、遺跡土壌からのDNA分析も1つの手法となればいいなと、一喜一憂しつつ土台を踏み硬めながら研究を進めています。

用語解説

(※1) デニソワ人
DNA解析から初めてその存在が明らかになった旧人。数万年前まで、主にアジア地域に生息していたと考えられている。

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比較社会文化研究院 澤藤りかい 講師

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