圧力で光励起状態分子の分裂を操る!柔らかな分子で拓く次世代エネルギー変換材料

~静水圧によって一重項分裂を自在に制御するソフトマテリアルの新設計指針を提案~

先導物質化学研究所
福原 学 教授

ポイント

・1つの光励起子を2つの励起子に増やす「シングレット・フィッション(SF)」を、静水圧(圧力) (※1)によって加速・減速できる分子を開発。
・分子をつなぐ柔軟なリンカー構造が圧力応答性の鍵であり、励起状態の反応速度を能動的に切り替えることに成功。
・圧力で光反応を制御する“ソフトマテリアル設計”の新指針を提示し、光エネルギー変換や光治療への応用に道を拓いた。

概要

太陽光や可視光エネルギーを効率的に利用するための鍵となる現象として、「シングレット・フィッション(Singlet Fission, SF)」が注目されています。SFとは、光によって生成された一重項励起子が隣接する基底状態分子と相互作用し、2つの三重項励起子(※2)を生み出す過程です。これにより、1つの光子から2つの励起子を得ることができ、光エネルギーの利用効率を向上させることが可能です。しかし、これまでSFを外部刺激によって能動的に制御することは困難でした。

今回、九州大学先導物質化学研究所の福原学教授、慶應義塾大学理工学部の羽曾部卓教授、酒井隼人専任講師、東京科学大学理学院の研究グループは、力学的な外部刺激の一種である静水圧を利用して、分子内SF過程(intramolecular SF, iSF)を制御することに成功しました。

SF活性をもつペンタセン二量体に、柔軟なアルカンやシクロヘキサンをリンカーとして導入した新しい分子群を設計・合成しました。これらの分子を用いて静水圧下で分光測定を行った結果、励起状態のダイナミクス、すなわちSF反応速度が圧力によって可逆的に変化することを明らかにしました。圧力によってSF速度が加速および減速するという反転現象を初めて実証するとともに、三重項励起子の寿命が圧力によって短縮しながらも生成割合が低下しないという新しい励起子挙動を見いだしました。

今回の発見は、圧力応答型の光エネルギー変換材料や生体環境での光線力学療法への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年10月13日(月)に英国 Royal Society of Chemistry の国際学術誌「Chemical Science」にオンライン掲載されました。

福原教授からひとこと

今回、発見したSF光反応過程の静水圧による能動的制御、とりわけ使用する溶媒によって加圧状態で生成してくる三重項励起子の逆転現象は、世界で初めての事象でした。当初は信じられない結果でしたが、種々の検証実験により明らかになった時は、非常にエキサイティングでした。

用語解説

(※1) 静水圧
あらゆる方向から均等にかかる圧力のことを指します。分子全体に均一な力を与えるため、分子の形や動きを変化させることができ、光の吸収や反応性を調整する手段として注目されています。

(※2) 三重項励起子
光を吸収した分子の中に生まれる「エネルギーを運ぶ粒(励起子)」の一種です。三重項励起子はマイクロ秒からミリ秒という比較的長い寿命を持ち、エネルギーを拡散させたり、他の化学反応を引き起こしたりすることができます。そのため、発光材料や光エネルギー変換の研究において重要な役割を担っています。

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