大規模データ解析で異常mRNAの分解ルールを再評価

~遺伝子変異の影響予測や疾患診断精度の向上に繋がる成果~

生体防御医学研究所
須山 幹太 教授

ポイント

・遺伝子変異によって生じる異常mRNAが分解されるか否かは、疾患の発症や重症度に深く関わるにもかかわらず、その分解規則には未解明の部分が残されていました。
・本研究では、1,086人の個人ゲノムと遺伝子発現量データを統合解析し、ナンセンス変異依存的mRNA分解(NMD)(※1)の予測精度を12%向上させることに成功しました。
・本成果は、遺伝性疾患の診断精度向上や治療薬開発への貢献が期待されます。

概要

遺伝子変異によって生じる異常なmRNAは、細胞内で「ナンセンス変異依存的mRNA分解(NMD)」という仕組みによって分解されます。このNMDの働きは、遺伝性疾患の発症や重症度に大きく関わるため、NMDが働く条件を正確に理解することが重要です。しかし、従来のNMD予測基準では一部の変異の挙動を説明できず、NMDが働く条件をより正確に評価することが求められていました。

本研究では、1,086人の個人ゲノムデータと遺伝子発現量データを統合的に解析し、NMD予測精度を12%向上させることに成功しました。

九州大学生体防御医学研究所の須山幹太教授と伊波大志大学院生らの研究グループは、従来の研究では考慮されていなかった「複数変異の組み合わせ」や「mRNAの翻訳状態」、「RNAアイソフォーム(※2)」といった要素(図1)を新たに取り入れ、これらがNMD予測精度に与える影響を評価しました。これらの要素を加味することで、NMD予測基準の重要性を再確認するとともに、これまで生物学的に説明が困難だった予測因子についても、説明可能なメカニズムを提示することができました。

本成果は、遺伝子変異の理解を深めることで、遺伝性疾患の診断や治療法の開発に役立つとともに、今後のゲノム医療の発展に向けた重要な進捗となることが期待されます。

本研究成果は、2025年12月2日(火)午前9時(日本時間)に英国の国際学術誌「Nucleic Acids Research」にオンライン掲載されました。

研究者からひとこと

これまでの研究によりNMDが働く条件が存在することが知られていましたが、本研究では新たな要素を取り入れ、統合的なデータ解析を行うことで、NMD予測基準の重要性を再確認し、生物学的理解をさらに深めることができました。また,新たなデータを取得することなく、既存の大規模な公共データを組み合わせて新しい視点から解析を行い、価値ある成果を得られた点も、本研究の大きな魅力だと考えています。

用語解説

(※1) ナンセンス変異依存的mRNA分解(NMD)
NMDは、異常な遺伝情報を持つmRNAを検出して分解する細胞の「品質管理機構」の一つです。遺伝子変異によって、タンパク質の設計図であるmRNAに「異常な終止コドン(PTC)」(※2)が生じると、通常より短い不完全なタンパク質が作られる可能性があります。NMDはこのような異常mRNAを認識し、分解することで、細胞内で有害なタンパク質が作られるのを防ぎます。

(※2) RNAアイソフォーム
RNAアイソフォームとは、同じ遺伝子から作られる複数種類のmRNAのことです。生体内には、一つの遺伝子から異なる形のmRNAを作り出す仕組みが備わっています。この仕組みにより、同じ遺伝子から異なる複数のタンパク質を作り出すことができ、細胞種や状況に応じて作り出すmRNAやタンパク質を変えることで、多様な生体機能をもたらすことができます。RNAアイソフォームの違いによって遺伝子変異の影響の受け方が変わるため、NMD規則の評価において、発現しているRNAアイソフォームを考慮することが大事になります。

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