上皮バリアを素早く再建する新たなメカニズムを発見

~アトピー性皮膚炎などの上皮バリアの破綻による病態の解明や治療法の開発に繋がる知見~

医学研究院
池ノ内 順一 教授

ポイント

・細胞膜に“待機状態”で蓄えられていたクローディンが、Rho-ROCK経路の活性化をきっかけに一気に解放され、新たなタイトジャンクションを迅速に形成するしくみを発見しました。
・新たなクローディン遺伝子の発現やタンパク質の合成を待たず、クローディンのストックを即座に活用するこの仕組みは、皮膚や消化管などストレスの多い環境で上皮バリアを瞬時に再建するために不可欠です。
・上皮細胞シートのバリア機能が低下することで起こるアトピー性皮膚炎や炎症性腸疾患などの病態解明や予防法の開発に役立つ知見です。

概要

私たちの体の表面や臓器は上皮細胞シートで覆われ、外部の病原体侵入や体内の水分漏出を防ぐバリア機能を果たしています。このバリアは、隣接する細胞同士がタイトジャンクションと呼ばれる構造でぴったりと接着することで維持されており、その主要な構成要素が「クローディン」というタンパク質です。皮膚や消化管の上皮は、常に機械的・化学的ストレスにさらされており、細胞の脱落や障害、炎症などが頻繁に起こります。さらに、上皮細胞は絶えず新しい細胞と入れ替わるターンオーバーを繰り返しています。こうした状況下でもバリアを維持するためには、既存のタイトジャンクションを壊すことなく、隣接細胞との間に「極めて短時間で新たなタイトジャンクションを形成する仕組み」が不可欠です。重要なのは、こうした応答には新しくクローディンの遺伝子を転写し、タンパク質を翻訳して合成する、という通常のプロセスでは間に合わないという点です。上皮は、あらかじめ細胞膜に“使われていないクローディン”をストックし、それを即時に活用する手段を備えていると考えられてきましたが、その具体的な仕組みは分かっていませんでした。

今回、九州大学大学院医学研究院の池ノ内順一教授、長佑磨助教らの研究グループは、「素早いタイトジャンクションの新生」を可能にする分子メカニズムを解明しました。細胞内のシグナル伝達経路であるRho-ROCK経路がスイッチとなり、膜タンパク質EpCAMやTROP2に結合して蓄えられていたクローディンを即座に開放することで、細胞はすぐにタイトジャンクションを再建できるのです。この成果は、組織のバリアを守る仕組みの理解を深め、将来的には皮膚や腸などのバリア機能異常に対する新たな治療法開発につながる可能性があります。研究の内容は2025年7月24日付で科学誌「eLife」に掲載されました。

研究者からひとこと

私たちの体を外敵から守ってくれているバリアとして働く上皮細胞は、体の表面や臓器の表面に存在するため、常に様々なストレスに曝されています。上皮細胞は、バリア形成に必要なクローディンを備蓄しておき、いざというときに供給する仕組みを明らかにしました。まさに「備えあれば憂いなし」― 体を守るしくみは本当に抜かりありません。(池ノ内教授)

詳細

本件の詳細についてはこちら

お問合せ先

医学研究院 池ノ内順一 教授

《8/6開催》第198回アジア・オセアニア研究教育機構(Q-AOS)Brown Bag Seminar Series「医用ミニブタを基盤とした最先端医療研究の展開 ‒異種移植を含む応用例から‒」

《9/1-10/15開催》スーパーコンピュータ利用 “超” 入門 講習会シリーズ

関連記事

  1. ヒトもマウスも夜に眼圧が上がる理由を解明

    2つのホルモンの「波」の重なりが緑内障リスクに関係する概日リズムを生み出す…

  2. ダイレクトリプログラミングによりニューロンを新⽣…

    ~ 新たな神経疾患治療法開発に期待 ~ポイント・脳⾎管疾患は…

  3. 約10万人の妊婦健診情報から「妊娠中体重増加曲線…

    〜 妊娠中の体重管理の参考になることを期待 〜ポイント・妊娠週数…

  4. 平滑筋肉腫の免疫逃避に関わる分子を発見

    ~免疫療法が不応とされてきた転移性平滑筋肉腫の新たな治療法開発に期待 ~…

  5. 【2/17開催】市民公開講座「未来の健康を拓く-…

    ~ 治療と仕事の両立・がんゲノム医療 ~「次世代の九州がんプロ養成プ…

  6. 【開催】(8/30)研究成果発表会・(9/1)九…

     九州大学がやってきたin東京九州大学で学びたい方や、働きたい方…

  7. クローバー会 第3回

    希少がん治療の最前線がん患者さんとご家族にがんに関する情報を提供しま…

  8. [7/15開催]第3回 フコイダン研究セミナー

    「ヌメ活」を紹介し、ヌメ活の主要食材である「もずく」に多く含まれるフコイダン…