――量子応用に向けた超偏極電子スピン材料の設計指針を提案――
理学研究院
宮田 潔志 准教授
ポイント
・色素-ラジカル連結分子を用いた電子スピンの光誘起スピン超偏極は量子技術への応用に向けて重要であるが、電子スピンの位置を制御しつつ効果的に偏極することが困難であった。
・色素から構成される金属錯体骨格(MOF)にラジカル電子スピンを配置し、MOFの光捕集能を利用することで材料中の電子スピンが効果的に偏極されることを明らかにした。
・MOF中の配置が制御された超偏極電子スピンを用いることで、量子センシングなどの量子技術への応用が期待される。
概要
東京大学大学院理学系研究科の濱地智之大学院生、井上魅紅大学院生、楊井伸浩教授らの研究グループは、九州大学大学院理学研究院の宮田潔志准教授、恩田健教授、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの婦木正明特命助手、小堀康博教授、京都大学理学研究科の伊藤琢磨特任助教、倉重佑輝准教授らと共同して、光捕集アンテナ(注1)として機能する金属錯体骨格(MOF)を用い、電子スピンを効果的に超偏極できることを明らかにしました。
光励起によって電子スピンのスピン偏極率(注2)を向上させる光誘起スピン超偏極は、量子センシング(注3)や動的核偏極法(Dynamic Nuclear Polarization;DNP)(注4)といった量子技術に重要です。本研究では色素で構成されたMOF骨格における励起子拡散を用いることで電子スピンを効果的に超偏極する「光捕集超偏極」というコンセプトを初めて実証しました。今回の成果により、超偏極電子スピン材料を用いた複雑な量子計算、分析物の量子センシングやDNPといった量子技術への応用が期待されます。
用語解説
(注1)光捕集アンテナ
分子集合体において、分子が光励起された後、分子間でエネルギーを伝達することで反応中心へ効率的にエネルギーを受け渡すシステムです。
(注2)スピン偏極率
スピンが有する複数の量子状態のうち、スピンが特定の状態に多く占有されていることをスピン偏極状態といいます。この占有率を定量したものをスピン偏極率といいます。スピン偏極率が高いほど磁気共鳴の感度は向上し、量子操作を行うにあたって純粋な初期状態を生成できるため、量子技術への応用には高いスピン偏極率を得ることが重要です(図3)。
(注3)量子センシング
量子ビットの重ね合わせ状態(図4)を用いたセンシング技術を量子センシングといいます。重ね合わせ状態は外場に対して非常に敏感であることから、従来よりも高感度で高分解能なセンシングが可能になると期待されています。
(注4)動的核偏極法(Dynamic Nuclear Polarization;DNP)
核スピンはスピン偏極率が非常に低いため、核磁気共鳴分光法(NMR)や磁気共鳴イメージング (MRI)の感度は低くなります。DNPは、電子スピンの高い偏極状態を核スピンへと移行することで、高感度なNMR/MRIを実現する技術です。
詳細
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