マヨネーズとガラスの隠れたつながりを発見!

~ソフトジャム固体の粘弾性の解明~

理学研究院
水野 大介 教授

ポイント

・マヨネーズや泡沫などを代表例とする、柔らかい粒子が乱雑に充填された物質(ソフトジャム固体)について、その粘弾性を定量的に理解することに、世界で初めて成功しました。
・特に、ソフトジャム固体が示す粘性の急激な増大(異常粘性損失)と、ガラスが普遍的に有する低周波振動(ボゾンピーク振動)に、関係があることを発見しました。
・本研究で発見されたソフトジャム固体とガラスの関係に基づいて、多様なアモルファス固体の統一的な理解が大きく促進されることが期待されます。

概要

マヨネーズや泡沫などは、柔らかい球状粒子が乱雑に充填された物質であり、ソフトジャム固体(注1)と呼ばれます。ソフトジャム固体は、液体と固体の中間の性質である粘弾性(注2)を示しますが、その理解は十分ではありませんでした。特に、異常粘性損失(注3)と呼ばれる、遅い変形に対して粘性が急激に増大する現象について、理解が困難でした。

今回、東京大学大学院総合文化研究科の原雄介大学院生(研究当時)と池田昌司准教授は、九州大学大学院理学研究院の水野大介教授らと共同で、ソフトジャム固体の粘弾性を理解することに成功しました。典型例として、マヨネーズのような高密度エマルジョンに注目し、粘弾性の微視的理論の構築と、マイクロレオロジー実験(注4)による粘弾性測定を行ったところ、理論と実験が定量的に一致することを見出しました。

またこの理論により、ソフトジャム固体の異常粘性損失が、ガラス(注5)の異常振動と関係していることがわかりました。ガラスは、ボゾンピーク振動(注6)と呼ばれる、空間的に乱れた低周波振動を、普遍的に持つことが知られています。今回の研究で、ソフトジャム固体の異常粘性損失は、ボゾンピーク振動と同様の特性を持ち、同様の法則に従うことがわかりました。

この発見は、ソフトジャム固体の粘弾性を解明するだけでなく、ソフトジャム固体とガラスの隠れた関係を暴くものであり、多様なアモルファス固体(注7)の物性の統一的理解を大きく推進する成果と言えます。

本研究成果は、日本時間1月10日19時(米国東部時間:10日午前5時)に「Nature Physics」誌に掲載されました。

用語解説

(注1)ソフトジャム固体
柔らかい粒子が乱雑な構造のまま固化した物質群を、ソフトジャム固体と呼びます。ソフトジャム固体のうち、マヨネーズなどのエマルジョンは、油滴粒子が水中に分散して乱雑充填した物質であり、泡立てたシャンプーのような泡沫は、気泡粒子が水中に分散して乱雑充填した物質です。構成粒子の充填率が64% 程度を超えると、粒子がランダム最密充填状態に陥り、乱雑な配置のまま固化します。

(注2)粘弾性
物質を変形させるには力を要しますが、変形の大きさに比例する力を弾性、変形速度に比例する力を粘性と呼びます。物質の粘弾性を調べるには、物質に周波数wの振動的な変形を加え、応力を測定し、変形の大きさに比例する成分である貯蔵弾性率G'(w)と、変形速度に比例する成分である損失弾性率G”(w)を決定します。標準的な粘弾性モデルであるフォークト模型では、弾性係数をE、粘性係数をnとして、G'(w)=E, G”(w)=nwとなります。

(注3)異常粘性損失
ソフトジャム固体では、幅広い周波数領域でG'(w)=E, G”(w)~√wが成立することが知られています。これを異常粘性損失と呼びます。これは、損失弾性率G”(w)が周波数wに比例するフォークト模型とは大きく異なる挙動であり、実効的な粘性がG”(w)/√w~1√wのように、低周波で異常に大きくなることを意味しています。

(注4)マイクロレオロジー実験
通常の粘弾性測定では、物質に巨視的な変形をかけて、巨視的な応力を観察します。一方でマイクロレオロジーという手法では、物質中にマイクロメーターサイズのコロイド粒子を挿入し、そのコロイド粒子の運動をレーザーで追跡することで、物質の粘弾性を測定します。マイクロレオロジーは、通常の粘弾性測定が不可能なサンプルに適用できることや、高周波数領域の測定が可能な事が特徴です。

(注5)ガラス
ガラスは幅広い用語で、文脈により、様々な意味で用いられます。しかし本稿では、原子・分子が乱雑な構造のまま固化した固体をガラスと呼びます。シリカガラスは、ケイ素原子と酸素原子が乱れた配置のまま固化した物質です。その他にも、高分子が乱れた配置のまま固化した高分子ガラスや、金属原子が乱れた配置のまま固化した物質である金属ガラスなどがあります。

(注6)ボゾンピーク振動
固体中の振動は、多くの場合、三角関数で表される平面波となります。すなわち、振動は空間的に周期構造を持ちます。しかしガラスの場合は、空間的に乱れた振動が、低周波数領域にすら存在することが知られており、この振動はボゾンピーク振動と呼ばれています。ボゾンピーク振動は、ガラスの物理で長く研究されてきており、その理解が深まっています。

(注7)アモルファス固体
構成要素が乱れた配置のまま固化した物質を総称して、アモルファス固体と呼びます。ソフトジャム固体やガラスは、アモルファス固体の一例です。その他には、砂山や穀物など、ミリメーターやセンチメーター程度のサイズの粒からなる粉粒体もその一例と言えます。

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。

お問い合わせ先

理学研究院 水野 大介 教授

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