神経突起の配線を多くの色で標識し自動解析する手法を開発

医学研究院
今井 猛 教授

ヒトには見えない7原色の世界を機械で識別

ポイント

・脳の情報処理を支える神経回路は複雑に絡み合っており、配線の詳細な解析は困難でした。
・神経細胞を7原色で染め分け、100個以上の神経細胞の配線を自動解析することに成功しました。
・AIを駆使した神経細胞の配線の解析が加速するものと期待されます。

われわれの脳機能は、膨大な数の神経細胞による複雑な演算によって実現しています。従って、脳における情報処理の仕組みを理解するには、それらの神経細胞の配線を明らかにすることが必要です。しかしながら、脳の中では多くの神経細胞の配線が絡み合っていることから、同時に多数の神経細胞の配線を解析することは困難でした。
本研究では、多色標識によって神経回路のつながりを自動解析する新しい手法を開発しました。
九州大学大学院医学研究院の今井猛教授、マーカス・ルーウィ助教(研究当時)、藤本聡志助教、馬場俊和大学院生らの研究グループは、まず神経細胞を7種類の蛍光タンパク質の組み合わせによって多色標識することに成功しました。従来、3種類程度の蛍光タンパク質の組み合わせで標識することは行われていましたが、7種類の色素を用いることで、色の組み合わせは飛躍的に増えました。しかし、7種類の色素の組み合わせは、ヒトの目で識別することは困難です。そこで、本研究では、色の識別を実現するプログラムを開発し、これを7原色に拡張しました。具体的には、多次元データを分類できる新たなプログラムdCrawlerを開発しました。さらに、dCrawlerを使って神経突起の色情報を分類し、似た色の組み合わせをもつ神経突起を自動同定するプログラムQDyeFinderを開発しました。これによって、色情報だけに基づいて、多くの神経突起の配線の様子を自動解析することに成功しました。このように、「超多色」標識と7原色の色表現の自動解析によって、神経回路の配線の解析が飛躍的に向上しました。
本成果は、神経回路の配線図を明らかにするコネクトミクスと呼ばれる研究分野の発展に寄与することが期待されます。
本研究成果は、令和6年6月25日(火) (日本時間午後6時)に英国の科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。

研究者からひとこと

2018年に3種類の蛍光タンパク質を使って神経回路を多色標識する技術を開発し、神経回路の美しい画像を撮ることができました。今回は7種類の蛍光タンパク質を使って、それよりもずっとカラフルな画像を撮ることができたのですが、3原色の世界に生きる皆様にはその美しさを十分にお伝えできないのが残念です。

研究に関するお問合せ先

医学研究院 今井 猛 准教授

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。

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【7/10開催】第148回アジア・オセアニア研究教育機構(Q-AOS)Brown Bag Seminar Series「デンドリマーを基盤とした発光材料の開発 – 塗布型有機EL の開発に向けて」

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