食事のつかえ、検査で異常なし→食道拡張障害かもしれません!

~“拡張障害”による食道運動障害という疾患概念の確立~

医学研究院
伊原 栄吉 准教授

ポイント

・機能性嚥下障害(Functional dysphagia; FD)※1は、内視鏡検査や高解像度食道内圧検査(High-resolution manometry; HRM)※2など従来の検査では異常がないにもかかわらず、「つかえ」や「飲み込みにくさ」を訴える原因不明の疾患です。
・今回、本研究グループは独自に開発した食道の拡張(広がり)機能を評価できる新しい検査法を用いることで、FDの主要な病態が「食道拡張障害」であることを世界で初めて明らかにしました。
・本研究により、FDのサブタイプとして食道拡張障害という新しい疾患概念を確立しました。さらに飲み込み動作を担う咽頭から食道上部の筋(食道横紋筋)の収縮力低下が、この食道拡張障害の原因となることを発見しました。
・これまで診断法も治療法も確立されていないFD診療に大きなインパクトを与える研究です。

概要

食べたものが胸につかえる(つかえ症状)・飲み込みにくい(嚥下困難)といった症状は、生活の質を著しく低下させるだけでなく、つかえた食事が咽頭内に逆流することで致死的な合併症である誤嚥性肺炎のリスクになります。近年、内視鏡検査や食道運動を可視化する高解像度食道内圧検査の登場により、食道運動障害の診療は大きく進歩しました。しかし、多くの患者は、これらの検査を行なっても原因を特定できず、機能性嚥下障害(Functional dysphagia; FD)と診断されます。FDの有病率は世界人口の約3%に及びますが、これまで明確な診断法や治療法は存在しませんでした。

食道は、食べ物を受け入れる「拡張相」と、胃へ送り込む「収縮相」の2つの過程で働きます。九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、伊原栄吉准教授、水流大尭大学院生らの研究グループは、従来の研究がもっぱら収縮相のみに焦点を当てていたことに着目し、FDの原因が拡張相の異常にあると仮説を立てました。本研究では、University of California San DiegoのRavinder Mittal教授らとの共同研究により、拡張相の評価を可能とした「Distension-contraction plots(DCPs)※3」および「おにぎり食道造影検査※4」という新たな検査法を用いて解析しました。その結果、FDの主要な病態が食道拡張障害であることを解明し、FDのサブタイプとして食道拡張障害という新しい疾患概念を確立しました(図1)。さらに、飲み込み動作を担う喉から食道上部の筋(食道横紋筋)の収縮力低下が食道拡張障害の原因となることを発見しました。

本研究は、食道運動において拡張相の重要性を世界で始めて示した研究であり、これまで客観的な診断法と治療法がなかったFD患者さんに新たな希望をもたらすものです。

本研究成果は米国の医学雑誌「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に2025年12月10日(水)23時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

本研究の成果をもとに食道拡張相という新たな視点から、食道運動障害の画期的な治療法の開発を目指し、つかえ症状で困っている患者や誤嚥性肺炎を減らしていきたいです。

用語解説

(※1) 機能性嚥下障害(Functional dysphagia; FD)
解剖学的、器質的、運動学的に明らかな異常がないにもかかわらず、嚥下した内容物が食道内を通過する際につかえ・嚥下困難などの症状を感じる状態。国際的なROME-Ⅳ分類によって定義されている。これまで食道知覚過敏(中枢神経の問題)が主な病態であると信じられてきた。

(※2) 高解像度食道内圧検査(High-resolution manometry; HRM)
食道内の圧力を測定し、食道運動を評価する機器である。現在、食道運動障害を診断する標準的な評価基準である。HRM検査に基づく食道運動障害の国際的な診断基準であるシカゴ分類が提唱され、食道運動障害の診療は発展を遂げた。しかし、HRMは、食道運動の収縮相のみを評価する機器であり、拡張相の評価はできない点が盲点であった。

(※3) Distension-contraction plots (DCPs)
食道運動の拡張相の評価を可能とした新たな検査解析法。インピーダンスセンサー付きのHRM検査では、検査中に嚥下した水が食道内を通過する状態(クリアランス)を評価することが可能であることを利用して、インピーダンス値の推移から食道拡張の状態を評価する検査解析法を確立した。専用ソフトでの解析によって、拡張相を線波形で視覚化できる。いくつかの拡張相パラメータ(area under the curve of distension; AUC distension,peak distension, peak distension time)に数値化することが可能である。

(※4) おにぎり食道造影検査
食道運動障害を視覚的な評価を目的として、本研究グループが開発した検査。食道運動障害の診断にはHRMが必要であるが、本邦では一部の専門施設でしか施行できない。おにぎり食道透視検査は、バリウム粉末を付着させた一口大おにぎり(10 g)を15回咀嚼(そしゃく)した後に飲み込んでもらう検査である。おにぎりの凝集体が食道内を流れる状態を、レントゲンを用いて観察する。食道運動が正常であれば、飲み込んだおにぎりの凝集体は、ひとかたまりの状態で胃まで運ばれる。一方、食道内におにぎりの凝集体が停滞する場合、何らかの食道運動障害が疑われる。食道運動の収縮相のみならず拡張相の評価まで可能である。

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医学研究院 伊原栄吉 准教授

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