「あと1%」の適格率改善を実現する種子選別技術を開発

~「シードロス」を解消し、持続可能な食糧生産に貢献 ~

ポイント

・持続可能な食糧生産には、高品質な種子の安定供給と、それを支える技術開発が不可欠です。
・近赤外分光法とAIモデルを併用し、種子の適格率を「あと1%」まで改善できる選別技術を開発しました。
・種子の効率的利用による食糧生産の革新に向けて、本技術を実装した選別装置の製作も進めています。

概要

 発芽率や品種の純度といった種子の品質は、外観の特徴からは判別できない場合が多く、種苗生産では、適格率が基準に満たないために廃棄される種子の発生、いわば「シードロス」が問題となっています。作物生産用の種子は、多段階の選別を経て調製されていますが、それでもなお残る不適格な種子は、内部の構造や成分に原因があるものと予想されます。
 九州大学大学院理学研究院の松田助教は、トキタ種苗株式会社との共同研究において、化学成分の「指紋情報」ともいわれる近赤外光の反射スペクトルをAIモデルに学習させることにより、多様な作物種子の適格率を「あと1%」の精密さで改善できる、新たな選別技術を開発しました。また、シンフォニアテクノロジー株式会社とともに、この技術を組み込んだ選別装置の製作も進めており、その実用化を通じて、「シードロス」の解消を含む、持続可能な食糧生産に貢献できることが期待されます。
 本研究の成果は、2023年9月20日(水)午後2時(米国東部時間)に、米国オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

用語解説

種子の適格率:「発芽率」などの用語の方が分かりやすいですが、種子の品質を左右する特性は、発芽能だけではありません。一部またはすべての特性が要件を満たすものの割合を、「適格率」と表現しています。
シードロス:昨今問題となっている、食品が消費されずに廃棄される「フード(=食品)ロス」を真似た造語で、作物生産用に調製された種子が、その目的に使用されずに廃棄されることを表しています。シード(seed)とは種子のことです。
種苗法:創出された植物の新品種に対する権利保護と、流通種苗の表示等の規制を定めた法律で、本研究と特に深く関係するのは、後者における「指定種苗の生産等に関する基準」の内容です。種子については、下記の純度や発芽率のほか含水量が、種苗業者が流通に際して遵守すべき品質基準として、具体的数値を示しています。
種子の純度:「異種、異品種及び品種特性が明らかに変化した変異株の種子を除いた種子の全体の種子に対する粒数割合をいう」(種苗法条文)。また、異種種子と夾雑物を除いた種子は「純潔種子」と定義されています。
種子の発芽率:上記の「純潔種子」のうち、「正常芽生を生ずる種子の全体の種子に対する粒数割合をいう」(種苗法条文)。芽生えはしても、作物生産に利用できる苗に育たない場合は、その種子は発芽したとは見なされません。高い基準(85%)が定められているのは、アブラナ科のナタネやはくさい、ウリ科のきゅうりやメロンなどです。
近赤外光:可視光(概ね波長範囲が380~780 nmの電磁波)に近接する長波長側の光のこと。確定的な波長範囲の定義はないようですが、ここでは短波赤外光を含む、780~2,500 nmの光を指しています。
反射スペクトル:対象物における、光の波長と反射率の関係を、数列により表したもの。本研究では反射スペクトルを使用しましたが、測定が可能であれば、透過や吸収スペクトルも同様に扱えます。
近赤外分光法:対象物に照射した近赤外光の、波長ごとの吸収、透過、反射量などを測定する方法のこと。赤外光がもつエネルギーは、物質を構成する分子に吸収され、化学結合の振動や分子の回転エネルギーに変換されます。赤外光の波長と光吸収の関係は、分子の構造に依存するため、赤外領域における分光特性を調べることで、物質の化学組成などを予測することができます。近赤外光は赤外光の中でも、非破壊的計測に適しています。
分光センサ:入射光を波長ごとに分け、それぞれの強度を数値化できる検出器のこと。点測定型の「分光器」が一般的ですが、本研究では対象物の分光特性を面的にとらえることのできる、「ハイパースペクトルカメラ」を使用しています。
AIモデル:入力データに対し、どのような出力を返すかを決定するための仕組みのことで、モデルとは計算式のことです。昨今は深層学習(ディープラーニング)が有名ですが、従来的な機械学習法も、広義のAI(人工知能)に含まれます。本研究で適用したのは、線形スパースモデルとよばれる手法です。

詳細

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