小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物

~「砂の物質分析チーム」の論文が「Nature Astronomy」に掲載されました~

概要

 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)では小惑星リュウグウ試料分析を、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」および、2つの「Phase-2キュレーション機関」にて進めています。
 この度「はやぶさ2初期分析チーム」のうち「固体有機物分析チーム」の研究成果をまとめた論文が、アメリカの科学誌「Science」に2023年2月24日付(日本時間)で掲載されましたのでお知らせします。

ポイント

・小惑星リュウグウ試料の非破壊分析(非処理の微粒子分析)と破壊分析(試料の酸処理によって分離精製した不溶性残渣の分析)をそれぞれ施した結果、リュウグウに含まれている有機物の主要な割合を黒色の固体有機物が占めていることがわかった。
・小惑星リュウグウ試料中の固体有機物は層状ケイ酸塩や炭酸塩と共存していたことから、リュウグウ母天体で水、有機物、鉱物との化学反応が起こった証拠を見出した。リュウグウ試料中の有機物の組成は始原的な炭素質コンドライト隕石の有機物と似ているが、リュウグウの方が隕石に比べて有機物の組成に多様性が見られた。この結果は、リュウグウの母天体における液体の水と有機物との反応がさまざまな条件で進行したことを示す。
・小惑星リュウグウ試料中の固体有機物に、熱で炭化した痕跡は見られなかったことから、リュウグウの有機物は母天体内部や天体衝突によって高温で加熱されていないことがわかった。
・小惑星リュウグウ試料中の固体有機物の同位体組成から、少なくとも一部の有機物は星間分子雲や原始惑星系円盤の外側といったマイナス200℃以下の低温環境で形成されたことがわかった。
・C型小惑星リュウグウ、D型小惑星、彗星の有機物との間には共通点と相違点が見出された。このことは、原始惑星系円盤で生じた共通の前駆物質が、それぞれの微惑星(のちの小天体)に取り込まれた後、それぞれの母天体での化学反応に応じて変化した結果であると考えられる。
・本研究の成果から、C型小惑星の黒い固体有機物をはじめ、生命を構成する成分とは一見無関係のようにみえる形をした有機物が、初期の地球や惑星に大量にもたらされ、ハビタブルな天体の形成に寄与した可能性が新たに期待できる。

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