がんの原因となる新たながん抑制遺伝子RPS19を発見

未解明であったRPS19のがん抑制機能と作用機構を世界で初めて明らかにし、RPS19遺伝子異常と関連するがんの治療戦略も提唱

薬学研究院
藤田雅俊 教授

ポイント

・細胞がん化を引き起こす遺伝子変異の全貌はなお明らかではなく、その解明は新たな診断法や治療法開発のために必須
・がん発症の原因となる新たながん抑制遺伝子RPS19(※)を発見し、その作用メカニズムを世界に先駆けて解明
・RPS19遺伝子異常と関連するがんの治療戦略を提唱しており、今後の検討に期待

概要

 ヒトにおいてRPS19遺伝子の変異は高い発がん性と関連しています。例えば先天的なRPS19の変異はダイアモンド-ブラックファン貧血(※1)の最も多い原因であり、その患者では高い発がん性が認められます。しかし、RPS19が実際にがん抑制因子として機能しているのか、そしてもしそうだとして、どのような機序でがんを抑制しているのかということが、まったく不明なままでした。これらを解明することは、RPS19異常に関連するがんの治療成績の向上を目指す上からも重要です。
 九州大学大学院薬学研究院・藤田雅俊教授、杉本のぞみ前助教(現東邦大学医学部助教)らの研究グループは、国立がん研究センター・清野透先生、徳島大学・小迫英尊教授との共同研究で、RPS19がヒト細胞のがん化を実際に抑制していることを世界で初めて明らかにし、そのがん抑制メカニズムを解明しました。
 具体的には、RPS19タンパク質はSET(※)というがん促進的なタンパク質に結合しSETの働きを抑えることで、最も重要ながん抑制タンパク質の一つであるp53(※)の機能を高め、発がんを抑制することを発見しました。加えてデータベース解析から、乳がんと胃がんにおいて、RPS19タンパク質量の減少がp53野生型(変異がなく機能が損なわれていない)のがん患者の高い悪性度の原因となっている可能性を示唆するデータを得ました。また、悪性黒色腫を含むいくつかのがんでも、SETとの結合能力が損なわれるRPS19変異が発がんの原因となっている可能性が示されました。
 今回の研究成果は、なお全貌が明らかとなっていない細胞がん化プロセスの新しい分子メカニズムを解明したという科学的意義のみならず、RPS19変異が誘発するがんの治療戦略を考える上でも重要な知見を与える可能性があります。すなわち、p53野生型かつRPS19変異を持つ患者群では、p53タンパク質量を増加させるような薬剤(具体的にはp53を分解しているMDM2(※2)阻害剤(※3))の使用が、治療効果を持つ可能性が考えられ、今後の検討が期待されます。
 本研究成果は米国の科学雑誌「Cell Reports」に2026年5⽉14⽇(⽊)(⽇本時間午前0時)に掲載されました。

研究者からひとこと

本研究成果は、かなりの年月をかけて、多くの優秀な大学院生や助教の先生方の力で得られたものです。今回やっと論文出版に漕ぎ着けて、肩の荷が降りたというのが、現在の正直な感想です。 この研究成果が、一人でも多くのがん患者の方を救う治療につながることを期待しています。(藤田雅俊)

用語解説

(※1)ダイアモンド-ブラックファン貧血:
リボソーム(細胞のタンパク質を合成する装置)を形作るリボソームタンパク質(関連するものも含めると100近くの種類がある)の遺伝子に先天的に変異が起こることにより、貧血や奇形、発育障害を含む種々の異常を発症し、高発がん性を伴うことが多いと考えられている疾患。多くの種類のリボソームタンパク質の異常で発症することが知られているが、それぞれ症状に多様性があり、各リボソームタンパク質異常による発症や高発がんのメカニズムはなお全貌が明らかでない。

(※2)MDM2:
細胞増殖のブレーキであるp53のタンパク質量が適切に保たれるように調節しているタンパク質。p53量が多すぎると細胞増殖は止まってしまい、少なすぎるとがん化の可能性に向かう。そこでMDM2が適切に働くことにより、p53量を調節している。実際にはMDM2はp53を分解しているので、細胞増殖への効果としては“アクセル”タンパク質ということになる。

(※3)MDM2阻害剤:
p53タンパク質自身には異常がなく、その調節因子の異常のためにp53タンパク質量や機能が低下したため細胞ががん化した場合、MDM2の機能を抑制するとp53量が増加し、がん細胞増殖が抑制される。このメカニズムを利用し、MDM2“アクセル”をオフにすることにより、p53“ブレーキ”をオンとする薬剤。

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薬学研究院 教授 藤田雅俊

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