遺伝性疾患の原因となる変異を新たに約4,000個発見

~希少疾患の診断率向上や創薬に期待~

ポイント

・遺伝性疾患にはまだ発症原因となる変異がわかっていないものが多く存在します。
・これまで注目されてこなかったゲノム領域での変異に焦点を当てることで、様々な遺伝性疾患について、その原因になると考えられる変異を約4,000個同定することに成功しました。
・希少疾患の診断率向上や、これらの変異をターゲットにした核酸医薬品による治療への応用が期待されます。

概要

 遺伝性疾患はゲノムの特定の場所の変異によって起こります。特にゲノム中で重要な機能を担っている部分を壊す変異が原因となることが多く、様々な遺伝性疾患について原因変異が多数同定されてきました。しかし、明らかに遺伝性疾患の症状を呈する患者さんのゲノムを調べても、原因となる変異が見つかる確率は50%ほどしかなく、診断率が低いことが問題になっていました。
 九州大学生体防御医学研究所の須山幹太教授と同大学大学院システム生命科学府の坂口愛美大学院生は、この問題を解決するため、これまで注目されてこなかった「機能を担っていないゲノム領域」に焦点を当て、そこに余計な機能を作り出す変異の探索を情報解析技術を駆使して行いました。その結果、遺伝性疾患との関連が知られている約4,000個の遺伝子内に、これまで知られていなかった3,942個もの原因候補変異を同定することに成功しました。一度にこれほど多くの変異が報告されるのは初めてです。
 今回の成果は、遺伝性の希少疾患の診断率向上に貢献するとともに、これらの変異をターゲットにした核酸医薬品による治療の可能性につながるものです。
 本研究成果は、2022年3月18日に英国の国際学術誌「npj Genomic Medicine」にオンライン掲載されました。

用語解説

(※1)インターロイキン31
皮膚や血中に存在するT細胞から主に産生・分泌されるサイトカインの一種。皮膚の末梢神経で発現するIL-31受容体に結合することでシグナルが伝達され、痒み感覚を引き起こす。
(※2)転写因子
DNAに特異的に結合し、DNAの遺伝情報をmRNAへと転写する過程を促進(あるいは抑制)するタンパク質。単独または他のタンパク質と複合体を形成することでこの機能が発揮される。
(※3)一塩基多型
個人間でゲノムの一塩基が異なる状態で、特に変異が集団内において一定以上の頻度で存在するものを一塩基多型(SNP; スニップ)と呼ぶ。体質の違いやある特定の病気へのかかりやすさなどの個人差を生み出す要因になっているとされる。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

SDGs達成に向けた取組み推進と大学の未来を考える

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