~説明可能AI・ChatGPT・専門家の協働により、材料開発の試行錯誤を削減~
工学研究院
加藤 幸一郎 教授
ポイント
・燃料電池や水電解装置(※1)の中核部材であるアニオン交換膜(※2)(AEM)は、水素社会の実現に向けて重要な材料であるが、その分子設計は依然として経験則に大きく依存していた。
・機械学習(ML)、特に人工ニューラルネットワーク(ANN)(※3)は高分子材料の物性を高精度に予測できるが、その判断根拠が分かりにくい「ブラックボックス」であり、実験研究者が予測結果を分子設計へ活用することは容易ではなかった。さらに、説明可能AI(XAI)(※4)手法も、高次元の分子記述子(※5)を扱うANNモデルでは計算コストが大きく、実材料系への適用が難しかった。
・本研究では、346種のアニオン交換膜(AEM)ポリマーに基づく独自の実験データベースを用いて、説明可能AI、ChatGPT、および専門家の知識を組み合わせたHuman-in-the-loop(※6)のフレームワークを構築した。独自の次元削減戦略により高次元ANNへの説明可能AI適用を実現し、ブラックボックスAIの予測結果から、ビフェニル骨格の有効性や側鎖長8結合距離の重要性など、実験研究者が活用できる定量的な分子設計指針の抽出に成功した。
・本フレームワークにより、AIの予測根拠を研究者が理解し材料設計に反映できるようになるため、材料開発における試行錯誤の削減と候補材料の効率的な絞り込みが期待される。さらに、データベースおよびソースコードはGitHubで公開しており、AEM以外の機能性高分子材料にも展開可能であることから、幅広い材料系の研究開発加速への貢献が期待される。
概要
水素社会の実現に向けて、燃料電池や水電解装置の中核部材であるアニオン交換膜(AEM)材料の開発が急がれています。近年、人工知能(AI)を活用した材料設計が注目されていますが、高精度な予測を可能にする人工ニューラルネットワーク(ANN)はその判断根拠が分かりにくい「ブラックボックス」であるため、実験研究者が予測結果を理解し、分子設計に活用することは容易ではありませんでした。さらに、AIの判断根拠を可視化する説明可能AI(XAI)手法も、高次元の分子記述子を扱うANNモデルでは計算コストが大きく、実用的な適用が難しいという課題がありました。
九州大学大学院工学研究院の加藤幸一郎教授、藤ヶ谷剛彦教授および同大学大学院工学府博士課程3年のPhua Yin Kan氏らの研究グループは、燃料電池や水電解装置の中核部材を担うアニオン交換膜(AEM)材料を対象に、説明可能AI、ChatGPT、および専門家の知識を組み合わせたHuman-in-the-loopのフレームワークを構築しました。本手法により、従来は経験則に大きく依存していた設計指針に対して、分子記述子レベルで構造と物性の関係を定量的に結び付けることに成功し、ビフェニル骨格の有効性や側鎖長が8結合距離である重要性など、実験研究者が活用可能な定量的設計指針を抽出しました。
本成果により、AIが「予測する」だけでなく、「なぜそう予測したのか」を研究者が理解し、材料設計に反映できるようになることで、材料開発における試行錯誤の削減と候補材料の効率的な絞り込みが期待されます。さらに、データベースおよびソースコードはGitHubで公開しており、アニオン交換膜以外の機能性高分子材料にも展開可能であることから、幅広い材料系の研究開発加速への貢献が期待されます。
本成果は、2026年4月14日に英国王立化学会が発行する国際学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載されました。
用語解説
(※1) 水電解装置
説明 電気エネルギーにより水を水素と酸素に分離する装置。再生可能エネルギーによるグリーン水素の製造手段として注目されている。
(※2) アニオン交換膜
説明 イオンを選択的に透過させるイオン交換膜の一種であり、陰イオン(アニオン)を通す膜。燃料電池や水電解装置において、電極間でイオンを輸送する中核部材として用いられる。
(※3) 人工ニューラルネットワーク(ANN)
説明 人間の脳の神経回路を模した機械学習モデルの一種。複雑なデータの中から規則性を学習し、高精度な予測を可能にする一方で、判断の根拠が分かりにくい「ブラックボックス」になりやすい。
(※4) 説明可能AI(XAI)
説明 AIモデルがどのような根拠に基づいて予測を行ったかを、人間が理解できるようにする技術の総称。本研究では、予測に影響した要素を可視化するために活用した。
(※5) 分子記述子
説明 分子の構造や性質を数値で表現したもの。原子の種類や結合の仕方、分子の大きさ、電子的性質などを数値化することで、コンピュータによる材料の分析や予測が可能となる。
(※6) Human-in-the-loop
説明 AIの出力を人間の専門家が検証・修正するプロセスを明示的に組み込んだ枠組み。AIの有用性を活かしつつ、誤りや偏りを専門家が補正して信頼性を高める考え方。
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