⼤腸がん再発の原因となるがん幹細胞を発⾒

~ がんの根治へつながる新たな治療法開発に期待 ~

ポイント

・⼤腸がん患者さんには抗がん剤治療後も再発をきたす⽅がおり、⼤きな問題となっている。
・本研究で再発の原因となるがん幹細胞を発⾒し、その分⼦メカニズムの⼀端が解明された。
・従来の抗がん剤治療だけでは不可能だった、がんの根治へつながる治療開発が期待される。

概要

 ⼤腸がんは男性では11 ⼈に1 ⼈、⼥性では13 ⼈に1 ⼈が⼀⽣のうちに⼀度はかかるといわれているほど⾝近な病気です。そして患者さんの中には抗がん剤治療後にがんが再発してしまい、不幸な転帰をとる⽅も多く、医学的に⼤きな問題となっています。
 九州⼤学⽣体防御医学研究所の中⼭ 敬⼀ 主幹教授、⽐嘉 綱⼰ 助教、岡 毅寛 研究員らの研究グループは、⼤腸がん再発の原因となるがん幹細胞(※1)を新たに発⾒しました。
 ⼀⼝に⼤腸がんと⾔っても、腫瘍内には性質の異なる多様な細胞が存在しており、その中でがん幹細胞という⼀部の細胞が、がんの増殖や再発を起こす細胞だと考えられています。本研究グループは、1細胞RNA-seq 法(※2)を⽤いて腸管の悪性腫瘍を解析し、がん幹細胞の中にも細胞増殖の状態が異なる2 種類の細胞集団が存在することを明らかにしました。そして、このうち増殖の遅い⽅の集団には、細胞周期の停⽌に重要なp57(※3)という遺伝⼦が特異的に発現していることを発⾒しました。従来の抗がん剤は増殖の速い細胞をターゲットとして設計されているため、p57 発現細胞には効果が薄いこともわかりました。そこで、p57 発現細胞を特異的に除去する薬剤と抗がん剤を併⽤したところ、がんの再発は強⼒に抑制され、p57 発現細胞が⼤腸がん再発の主要な原因の1 つであることが証明されました。
 今回の発⾒は、p57 が増殖の遅いがん幹細胞の⽬印としてだけでなく、抗がん剤抵抗性を司る実体分⼦として働いていることも⽰唆しており、将来的にがんの有望な治療標的になることが期待されます。
 本研究成果は⽶国の雑誌「Cancer Research」に2023年3⽉8⽇(午前0時)(⽇本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1) がん幹細胞:すべてのがん細胞を⽣み出すことが可能で、がんの中の親⽟として機能している細胞です。
(※2) 1 細胞RNA-seq 法:1 細胞ごとに、すべての遺伝⼦の発現量を調べる⼿法です。これを数千〜数万の細胞に対して⾏うことで、がん組織の中にどのような性質の細胞がどれくらい存在しているのかを調べることができます。
(※3) p57:細胞周期を停⽌させることで、増殖のブレーキとして機能する遺伝⼦の1 つです。

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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