鉄と光でアルコールから水素を生み出す、超シンプルな新技術

〜地球にやさしい水素製造、バイオマスや廃棄物の利活用にも期待〜

工学研究院
松本 崇弘 准教授

ポイント

・鉄イオンと光だけで水素を発生させる、世界初の反応を発見
・貴金属・複雑な触媒(※1)を使わない、極めてシンプルな水素製造法
・バイオマス・廃棄物由来資源を原料とすればグリーン水素製造に応用可能

概要

化学製品が取り巻いている現代生活は触媒なしでは成り立たないと言っても過言ではありません。そのため、我々人類の生活をさらに豊かなものにすべく、日進月歩、触媒開発の研究は進められています。しかし、数多ある触媒開発研究の中で、意外にもこれまで十分に注目されてこなかった触媒があります。それが、「金属イオン(※2)」と呼ばれる、金属触媒(※3)における最も基本的でシンプルなユニットです。金属イオンを活性点とする不均一系触媒(※4)・均一系触媒(※5)・生体触媒(※6)の研究に関しては数多くの研究報告がなされていますが、その根源的なユニットである金属イオンそのものの触媒作用に注目した研究はほとんどありません。そのような背景において、金属イオンの触媒としての働きに光を当てるという“引き算”の発想によって、“コロンブスの卵”とも言うべきシンプルな反応系が実現されました。

今回、九州大学大学院工学研究院応用化学部門の松本崇弘准教授と大学院生の櫻井将也氏(当時、修士課程2年)・川崎雄大氏(当時、修士課程2年)、および、大阪大学先導的学際研究機構の大久保敬教授と板橋勇輝特任講師(常勤)の研究チームは、普遍金属(※7)の陽イオン(※8)の触媒作用について注目し、その働きについて詳しく調べました。その結果、地球上に最も豊富に存在し、最も安価で環境負荷の低い金属である「鉄」の陽イオンを触媒とし、光エネルギーを組み合わせることで、アルコールから水素を発生させるという極めてシンプルな反応系を見出すことに成功しました。まさに鉄を“賢者の石”に変える研究と言えるかもしれません。

この手法は、非常にシンプルな反応系であるにもかかわらず、前例のない全く新しい発見です。今後は、なぜこのような反応が起こるのか、その仕組みを科学的に解明していくことが求められます。しかし、実用面においては、シンプルな反応系だからこそ、汎用性が高く、様々なターゲットに適応可能です。例えば、バイオメタノール、バイオエタノール、グルコース(※9)、デンプン(※10)、セルロース(※11)などの再生可能資源からグリーン水素(※12)をつくることができ、廃棄物からの水素製造にも応用できると期待できます。また、シンプルな反応系ゆえに社会実装の実現可能性が高まり、本技術の開発によって、カーボンニュートラル社会の実現に一歩近づくことができたかもしれません。

本研究成果は英国の雑誌「Communications Chemistry」に2026年4月17日(金)午後6時(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

今回報告した反応は、誰にでも見つけるチャンスがあったにも関わらず、これまで発見されていませんでした。しかし、発想の転換で発見することができました。このような非連続なイノベーションを元に、新しい科学の1ページが切り開かれることを期待します。今後は、この革新的技術を、カーボンニュートラル社会/分散型・循環型社会の実現に資する技術にまでブラッシュアップしたいと考えています。また、今回見つけた反応は、専門知識を持たない小中高生でも簡単な実験操作で再現できるほどシンプルです。誰にでも大きな発見のチャンスがあることから、小中高生が将来、科学者を目指すきっかけになってくれればと思います。(松本 崇弘)

用語解説

(※1) 触媒
一般に特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないもの。

(※2) 金属イオン
電子の過剰あるいは欠損により電荷を帯びた原子。

(※3) 金属触媒
金属を含む触媒。

(※4) 不均一系触媒
固体状態のまま働く触媒。

(※5) 均一系触媒
溶液などに溶けて働く触媒。

(※6) 生体触媒
生物により作り出される触媒。

(※7) 普遍金属
技術的に容易に精錬ができ大量に存在する金属。レアメタルの反対語。

(※8) 陽イオン
原子や分子が電子を失うことでプラスの電荷を帯びた粒子。

(※9) グルコース
ブドウ糖とも呼ばれる分子式 C6H12O6を持つ単純な糖。

(※10) デンプン
分子式 (C6H10O5)nで表されるα-グルコースが脱水縮合して連なった構造をしている。

(※11) セルロース
木材の主要成分の一つ。分子式 (C6H10O5)nで表されるβ-グルコースが脱水縮合して連なった構造をしている。

(※12) グリーン水素
バイオマスから(再エネを含む)から作られ、製造時に二酸化炭素を排出しない水素。国連が主導する「グリーン水素カタパルト」などで2050年カーボンニュートラル達成の鍵とされ、国際的な生産・導入拡大が推進されている。

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