ルールに基づく国際秩序の終焉とAI軍事ロボットガバナンスの未来

~自律型致死兵器システムにおけるAI倫理の社会技術標準の提案へ~

高等研究院
翁 岳暄 准教授

ポイント

・主要国による軍事行動は、国際法に基づいて構築された「ルールに基づく国際秩序」を重大な危機に陥れ、AI軍事ロボットを規制するという従来のガバナンスモデルに重大な課題を突きつけています。
・本研究では、AIのペーシング問題(※1)によって引き起こされる知能ロボット規制のギャップを克服するための革新的なデザイン主導型ガバナンス(※2)として、「AI倫理の社会技術標準」(※3)のAI軍事ロボットにおける新たな応用を探求することを目的としています。
・九州大学高等研究院と東北大学学際科学フロンティア研究所の戦略的連携で、福岡と仙台の両ハブの上に構築された総合知・超学際組織リサーチ・ネットワークROBOLAW.ASIAを通して新学際研究領域「責任あるロボティクス」の促進が期待されます。

概要

ロボット化は、主要国における現代の軍事革命の重要な任務とみなされています。これまで、軍事用ロボットは、空中の無人ドローン、地上の偵察ロボット犬、海上の無人艦艇として広く利用されてきました。このように軍事用ロボットには多様な応用可能性が存在しますが、そのなかでも特に議論を呼んでいるのは自律型致死兵器システム(LAWS)の開発です。ウクライナ国境、中東、台湾海峡における不均衡の地政学的意味合いと、それらがLAWSに及ぼす潜在的な影響は、主要国が軍事配備の均衡を再調整する動機となる可能性があります。多くの人々は、国連特定通常兵器使用禁止条約(CCW)を、LAWSの規則を交渉するための主要なフォーラムと見なしています。一方で、主要国による軍事行動は、国際法に基づいて構築された「ルールに基づく国際秩序」を重大な危機に陥れ、AI軍事ロボットを規制するという従来のガバナンスモデルに重大な課題を突きつけています。本論文は、LAWSのガバナンスにおいて、有意義な人間による制御(MHC)が果たす法的な役割とその実装方法を検討しています。国際人道法(IHL)の諸原則を遵守するには、攻撃の計画や監督において人間の判断が不可欠ですが、現状のMHCには定義の曖昧さや技術的な実装基準の欠如という課題があります。責任著者である九州大学高等研究院の翁岳暄准教授(東北大学学際科学フロンティア研究所(クロスアポイントメント))と共同著者の同大学大学院法学府博士課程1年のImranova Khadija(イムラノヴァ ハディヤ)による「責任あるロボティクス」という革新的学際的な分野が、翁准教授がIEEE P7017 AI倫理標準化ワーキンググループ議長を務めた個人経験と方法論をもとにAI軍事ロボットガバナンス解決策として、IEEE 7000シリーズのAI倫理の社会技術標準を慣習国際人道法として活用することを提案しています。慣習国際人道法(Customary IHL)とは、従来の条約に基づく法や慣習法のプロセスとは異なる、規則や規範の発展を指します。米国と中国の競争によって高まっている近年の地政学的緊張は、日本が地域防衛、特に自律型致死兵器システムを規制するための慣習国際人道法の活用に向けた準備を促すことにもなります。AI倫理の社会技術標準を慣習国際人道法に統合することは、本研究の社会的意義の一つでもあります。

本研究成果はイギリスの雑誌「Advanced Robotics」に2026年3月25日(日本時間)に掲載されました。

用語解説

(※1) AIのペーシング問題
技術開発のスピードと、AI対応技術の規制に対する立法措置の遅さとのミスマッチが明らかとなっている問題のこと。

(※2) デザイン主導型ガバナンス
AI搭載型ソーシャルロボットがもたらす設計・倫理・ガバナンスの課題を多角的に検討。ソーシャルロボットを技術・行動・規範が相互作用する「社会技術システム」として捉え、開発初期段階から統合的視点を取り入れる必要性を重視する基本的な姿勢を強調。

(※3) AI倫理の社会技術標準
新興技術のガバナンスに使用される拘束力のない倫理的ガイドラインを指す。工業製品の作成や技術プロトコルの確立に関する要件を規定する技術標準(IEEE 802.11など)とは異なり、社会技術標準は、技術の開発と使用に関して、技術的成果物、人間の利害関係者、環境に関連する一連の道徳的ルールで構成されている。これらは、価値の引き出し(IEEE 7000-2021)、AIの透明性(IEEE 7001-2021)、フェイルセーフ設計(IEEE 7009-2024)、共感AI(IEEE 7014-2024)など、AIガバナンスに広く使用されています。実際の生活環境の中で新しい技術やサービスを開発・検証するための手法。ユーザーや市民が開発プロセスに積極的に参加し、実環境でのフィードバックを提供。リビングラボがAI規制において重要な理由はAIシステムの実際の社会的影響を、管理された実環境で観察・評価でき、過度な規制によるイノベーション阻害を避けつつ、適切な安全措置を見出すための実験的アプローチを提供する。

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高等研究院 翁 岳暄 准教授

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