硫酸イオン輸送の滞りが植物バイオマスを損なわずに抽台を早期化

– 作物の早採りや病気抑制への貢献に期待 –

ポイント

・硫酸イオン輸送体SULTR2;1は葉から茎、花、鞘への硫酸イオン輸送に働く
・SULTR2;1欠損株の葉にはグルタチオンが蓄積し、抽台が早まるが、植物量は維持される
・可食部中の含硫代謝物の蓄積制御や作物の早期収穫に向けた応用に期待

概要

 硫黄は動植物の生存になくてはならない元素です。植物は硫黄を硫酸イオンとして取り込み、アミノ酸やタンパク質、抗酸化物質であるグルタチオンなど、人間にとって有用な化合物を合成しています。硫酸イオンの取り込みや植物体内での分配は、硫酸イオン輸送体というタンパク質によってなされています。それぞれの輸送体がどのような場所で働き、植物の代謝や成長に影響を与えるのかについては、それほど分かっていません。硫酸イオン輸送体の一つSULTR2;1(※1)は根から葉、古い葉から新しい葉、種子への硫酸イオン輸送に働くことが知られています。一方で、生育期間を通した硫酸イオン輸送にどのように働くのかは分かっていませんでした。
 九州大学大学院農学研究院のSoudthedlath Khamsalath(スッテラー カムサラート、博士課程3年)氏、丸山明子教授らの研究グループは、広島大学、徳島大学、東京工業大学と共同で、SULTR2;1を欠損させると葉から茎への硫酸イオン輸送が滞り、ロゼット葉(※2)のグルタチオン量が増し、抽台(※3)が早まることを明らかにしました。
 研究グループは、SULTR2;1を欠損させた植物が成熟すると、ロゼット葉より上部への硫酸イオン輸送が滞り、ほとんどの部位で硫酸イオンや硫黄を含む化合物の量が減少することを見出しました。しかし、ロゼット葉内のグルタチオン量は増加しました。この植物では抽台が早まりましたが、ロゼット葉の成長や最終的な植物重量には影響しませんでした。興味深いことに、抽台が始まる時期のロゼット葉に含まれるグルタチオン量は野生型株と欠損株で同程度でした。硫酸イオンの輸送や含硫代謝物の分布と植物の成長調節に関する新しい発見です。
 農業人口の減少により、作物を育てる期間の短縮が求められています。また、グルタチオンには植物の病気を抑える効果が知られています。この成果を作物の早採りや作物中のグルタチオン量を調節する技術に生かしたいと考えています。
 本研究成果は、2024年3月1日(金)9時(日本時間)に国際学術雑誌「Plant and Cell Physiology」にオンライン掲載されました。本研究は、科学研究費補助金JP24380040、JP17H03785、JP22H02229、JP22H05573、JST A-STEPプログラムJPMJTM19GH、髙橋産業経済研究助成No. 12-003-152の支援を受けて行われたものです。

研究者からひとこと

植物体内の代謝が植物の生育に与える影響はさほどよく分かっておらず、私たちも見過ごしがちです。
Khamsalathさんの辛抱強い観察により、硫黄代謝と生育の間の興味深い関連性が示されました。
(丸山明子教授)

用語解説

(※1) SULTR2;1
硫酸イオン輸送体は英語でSulfate Transporterです。それを略してSULTRと命名されています。シロイヌナズナには12種類のSULTRがあり、タンパク質中のアミノ酸配列の類似性から4つのグループ(SULTR1, SULTR2, SULTR3, SULTR4)に分けられています。SULTR2にはSULTR2;1とSULTR2;2があります。
(※2) ロゼット葉
いくつかの植物は、葉を地面に広げて成長し、その中心から茎を伸ばします。タンポポやアブラナ科の植物もその一例です。この地面に広がって成長するタイプの葉をロゼット葉と呼びます。
(※3) 抽台
ロゼット葉を展開する植物は、花をつける時期になると茎を伸ばしてその先に花をつけます。この茎を伸ばす段階を抽台と呼びます。抽台は花を咲かせて種子を残す成長段階に移行したことを示します。

研究に関するお問い合わせ先

農学研究院 丸山 明子 教授

詳細

詳細は九州大学プレスリリースをご参照ください。

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