夏季東アジアの台風による極端降水の将来予測において日本の災害リスクの増大が明らかに

~台風の疑似温暖化実験~

理学府博士後期課程3年 / 理学研究院
呉 継煒 / 川村 隆一 教授

ポイント

・夏季東アジアの豪雨災害には台風による極端降水によって発生している事例が多数ありますが、温暖化の進行に伴い、東アジア各地域の台風降水が将来どのように増減するのか、地域毎の具体的な将来予測はまだ示されていませんでした。
・先行研究で考案された、台風本体の降水(以降、コア降水)と台風の間接的な影響(以降、遠隔降水)を分離・同定する客観的手法を基に、台風の疑似温暖化実験(※1)で台風降水が東アジア全域でどのように変化し得るのかを予測した結果、特に日本の豪雨災害リスクの増大が顕著であることが明らかになりました。
・本研究の成果は、日本のみならず東アジア各国の台風災害リスクの将来予測に重要な知見を与えるもので、将来予測の不確実性を今後さらに低減していく事にも繋がります。

概要

台風の強度や発生数が温暖化に伴いどのように変化するのかについては多くの研究がありますが、台風による極端降水の地域別の将来予測はほとんどありませんでした。特に日本を含む東アジアにおける台風災害リスクの将来予測は喫緊の課題です。本研究で、九州大学大学院理学府博士後期課程3年の呉 継煒大学院生、同大学院理学研究院の川村隆一教授らの研究グループは、過去に発生した台風の再現実験と温暖化シナリオSSP245(※2)に基づく疑似温暖化実験との比較解析を行いました。また地域別の台風による極端降水の将来変化を正確に把握するために、コア降水と遠隔降水を分離・同定する客観的手法を適用しました。解析結果から、東アジア全体では今世紀末には台風降水は約126%も増加し、特に遠隔降水の増加率が顕著でした。地域別でみると、朝鮮半島南部では減少する一方、中国南部と日本では増加し、特に日本では210%もの増加となっており、台風の経路変化に伴う台風コア降水の増加が主要因であることなどを明らかにしました。

これらの知見は、将来気候下の台風災害のリスクを考えるにあたって、地域特性を評価すると同時に、台風コア降水と遠隔降水を適切に評価する必要性を強く示唆しています。また本研究で用いた領域気象モデルによる台風の再現実験や疑似温暖化実験の精度向上によって、対象とする台風のサンプル数を大幅に増やすことで、将来予測の不確実性を更に低減していくことに繋がります。

本研究成果は、2025年11月23日(日)に国際学術誌「International Journal of Climatology」にオンライン掲載(早期公開)されました。また本研究はJSPS科研費補助金(JP24H00369)の助成を受けました。

用語解説

注1) 疑似温暖化実験
地球温暖化の将来予測において、台風やそれに伴う局地的豪雨などの空間規模の小さい現象を直接全球モデルで予測するのは水平解像度の問題などで容易ではありません。そこで、例えば台風による豪雨災害が発生した事例について、どの程度温暖化の影響を受けるのかを予測するために、全球気候モデルで予測された大気・海洋環境場の変化(温暖化差分)を高解像度の領域気象モデルの初期条件・境界条件に与えた数値実験が行われています。これを疑似温暖化(Pseudo Global Warming: PGW)実験と呼んでいます。現在気候下での大気現象の再現実験と比較することで温暖化影響を定量的に評価することが可能です。

注2) SSP245
“Middle of the Road”(緩和と適応の困難さが中程度)と呼ばれる中庸な社会(気候政策が導入されている)を想定する未来シナリオです。このシナリオでは今世紀末までに産業革命以前に比べて全球平均気温が約2.5~3℃上昇し、二酸化炭素濃度は600ppm前後に達します。

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理学研究院 川村隆一 教授

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