幅広い化学反応に対応するAIフレームワーク「CatDRX」

-高性能触媒設計を加速し、持続可能な化学・製薬産業に貢献-

薬学研究院
丹波 節 教授

ポイント

・化学反応条件に則した触媒を提案する生成AIモデルCatDRXを開発
・多様な触媒反応に対する触媒活性の予測と、新規触媒候補物質の提案を両立
・生成AIにより、化学産業における有用触媒開発の加速に期待

概要

東京科学大学(Science Tokyo)情報理工学院 情報工学系の大上雅史准教授、Kengkanna Apakorn(ケンカーンナー・アーパーコーン)大学院生、菊池雄太特任助教と、九州大学 大学院薬学研究院の丹羽節教授は、効率的に触媒設計を可能にする新たな生成AI手法を開発しました(図1)。

高性能な触媒(用語1)の設計は、化学反応に必要な時間やエネルギーといったコストを削減できる他、反応過程で生じる廃棄物も抑制できるため、あらゆる化学産業において達成すべき目標となっています。しかし、従来の触媒開発には数年を要することが多く、近年では開発初期段階における触媒候補の選定を効率化するため、機械学習手法の活用が試みられてきました。ただし、これまでのアプローチは特定の反応に特化しており、より汎用的に適用可能な手法の開発が求められていました。

大上准教授らは、生成結果に条件を指定できる条件付き変分オートエンコーダー (CVAE、用語2)に着目しました。CVAEに基づき、触媒反応における各種反応条件 (反応物、生成物、試薬、反応時間など)と、触媒構造から個別に特徴量を抽出・学習し、指定した反応条件に対応できる触媒を提案するCatDRX(Catalyst Discovery framework based on a ReaXion-conditioned variational autoencoder)という事前学習済み生成モデル(用語3)を開発しました。この手法により、任意の化学反応を促進する触媒の構造を提案すると同時に、その触媒活性を予測することが可能となりました。

この研究成果は2025年10月23日(現地時間)に英科学誌「Communications Chemistry」でオンライン公開されました。

用語解説

(1)触媒:反応開始に必要な活性化エネルギーを低下させることで化学反応を促進する物質のこと。触媒自身は反応の前後で化学的に変化しない。また、選択性を付与できるため、望ましい反応経路を優先させて副生成物を抑制できる。

(2)条件付き変分オートエンコーダー(CVAE):入力データから潜在空間を確率分布として学習する変分オートエンコーダーに条件を与えて出力結果を制御できるようにした生成モデルのこと。例えば、犬の画像を学習した変分オートエンコーダーは学習で得た確率分布に従ってランダムな犬の画像を生成するが、条件付き変分オートエンコーダーでは指定された犬種の画像を生成できる。

(3)事前学習済み生成モデル:大規模なデータセットであらかじめ学習され、データの特徴や分布を獲得している生成モデルのこと。ファインチューニング(小規模な追加の学習)を行うことで、新しいタスクや条件に対する性能を向上させられる。

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