-アルツハイマー病の新たな予防と治療法の開発が可能に-
九州大学生体防御医学研究所の中別府雄作主幹教授のグループは、ゲノムDNAへの酸化塩基、8-オキソグアニン※1の蓄積を抑える酵素、MTH1※2とOGG1※3がアルツハイマー病の進展を防ぐことを明らかにしました。
主要な酸化塩基である8-オキソグアニン(8-oxoG)は、アルツハイマー病(AD)患者の病態の進行に伴って脳ゲノムに高度に蓄積することが知られています。ゲノムDNAへの8-oxoGの蓄積はMTH1とOGG1によって低く抑えられます。MTH1は8-oxo-dGTP※4分解活性を有し、8-oxo-dGTPを8-oxo-dGMP※5に加水分解し、DNAへの取り込みを回避します。OGG1は8-oxoG DNAグリコシラーゼ活性により、DNA中のシトシン※6に対合している8-oxoGを切り出して塩基除去修復を開始し、DNA中の8-oxoGの蓄積を最小限に抑えます。MTH1とOGG1の発現レベルがAD患者の脳で顕著に低下していることから、MTH1とOGG1の機能低下がAD患者脳における8-oxoGの蓄積を引き起こし、AD病態の進行に関与する可能性が考えられていました。
中別府雄作主幹教授のグループは、生後1年で認知症を発症するADモデルマウスにMTH1とOGG1の二重欠損を導入して、AD病態の進展への影響を調べました。その結果、MTH1とOGG1を欠損すると4〜5ヶ月齢で脳ゲノムへの8-oxoG蓄積が著明に増加し、海馬と大脳皮質においてミクログリアの活性化と神経細胞のアポトーシスを認め、顕著な認知機能障害を示しました。海馬における遺伝子発現を調べたところ、アミロイドβの凝集を抑制するトランスサイレチンの発現が顕著に低下しており、アミロイドβの凝集も増加していました。また、薬剤でミクログリアの活性化を阻害すると、ミクログリアの核ゲノムにおける8-oxoGの蓄積が低下し、ミクログリアの活性化と神経変性も抑えられ、8-oxoGがミクログリアの活性化に関与することがわかりました。
今回の発見は、脳ゲノムにおける8-oxoGの蓄積を抑えることでADの発症や進展をコントロールできることを示しており、新たな予防と治療法の開発が期待されます。本研究は2021年3月23日に英国科学雑誌「Scientific Reports誌」にOnline公開されました。
用語解説
※1 8-オキソグアニン:全ての核酸塩基の中でグアニンは活性酸素によってもっとも酸化されやすく、その酸化体は 8-オキソグアニン(8-oxoG)と呼ばれています。8-oxoG はシトシンに加えてアデニンと塩基対を形成する性質をもつため、ゲノムに蓄積すると突然変異や細胞死の原因となります。
※2 MTH1:8-oxo-dGTP を 8-oxo-dGMP(8-オキソ-デオキシグアノシン一リン酸)とピロリン酸に分解する酵素です。
※3 OGG1:DNA 中でシトシンと対合した 8-oxoG を切り出す 8-oxoG DNA グリコシラーゼ活性を有する DNA 修復酵素です。
※4 8-oxo-dGTP:8-オキソ-デオキシグアノシン三リン酸、dGTP が活性酸素で酸化されたもの。DNA 合成時に鋳型 DNA のアデニンにも対合して取り込まれます。
※5 8-oxo-dGMP:8-oxo-dGTP が MTH1 で分解されて生じますが、DNA には取り込まれません。
※6 シトシン:正常な塩基の1つで、グアニンと対合します。
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九州大学プレスリリースをご参照ください。