老化・自己免疫疾患で蓄積する病原性B細胞の誘導の仕組みが明らかに!

~難病「全身性エリテマトーデス」などの自己免疫疾患治療に新たな道を拓く発見~

生体防御医学研究所
馬場 義裕 教授

ポイント

・自己免疫疾患の病態に寄与する病原性B細胞(Age-associated B細胞; ABCs, ※1)の発生や維持の仕組みは不明だった。
自己抗原にさらされたアナジーB細胞※2 が、持続的なBCRシグナルでABCsに分化することを世界で初めて解明。ブレーキ役の遺伝子Nr4a1も特定!
病原性B細胞の選択的除去を可能にする新規自己免疫疾患治療法の開発に期待。

概要

老化や自己免疫疾患において病気を悪化させる特殊なB細胞であるABCsがどのように発生し、維持されるかは明らかになっておらず、その詳しい仕組みの解明が求められていました。

今回、ABCsが慢性的に自己抗原(自分の体の成分)にさらされた「アナジーB細胞」から分化してできることを世界で初めて発見しました。また、その形成と維持には、抗原認識受容体であるBCR (B細胞受容体)を介した持続的な刺激が不可欠であることを明らかにしました。

九州大学生体防御医学研究所の馬場義裕教授、今林慶祐大学院生らの研究グループは、老齢マウスおよび自己免疫疾患モデルマウスを用いた研究により、ABCsが自己抗原(自分の体の成分)から持続的な刺激を受け、その結果として、BCRが細胞内に取り込まれ、常に活性化していることが明らかになりました。加えて、アナジーB細胞に特徴的な遺伝子である「Nr4a1」がABCsへの分化を抑制する役割を持つことが判明しました。また、ABCsにおいて恒常的に活性化しているBCRのシグナル伝達経路の重要な分子として「ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)」を特定し、その阻害薬を老齢マウスや自己免疫疾患モデルマウスに投与することで、ABCsが選択的に減少し、自己免疫疾患の症状改善にも成功しました。今回の発見は、老化と自己免疫の深い関係性を明らかにすると共に、病気の原因となるB細胞をピンポイントで除去することで、全身性エリテマトーデス(SLE, ※3)などの自己免疫疾患の病態を根本から改善し、さらに副作用を最小限に抑えた治療法の実現が可能になると期待されます。

本研究成果は2025年4月19日(土)午前4時(日本時間)に、米国の科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。また本研究はAMED-CREST等の助成を受けたものです。

用語解説

(※1) ABCs
Age-associated B cellsの略語で、老齢マウスの脾臓で見つかった特殊なB細胞サブセット。SLEや関節リウマチなどの自己免疫疾患の患者においても多く検出され、病態形成に関与していることで注目されている。CD11cやT-bet、Zeb2などの発現が特徴的であり、自己抗体産生、炎症性サイトカイン産生、T細胞への抗原提示の能力が高い。

(※2) アナジーB細胞
T細胞からのシグナルを受け取らず自己抗原からの弱いシグナルのみを持続的に受け取った自己反応性B細胞は、抗原に対して応答できない状態で体内に一定数保持されている。この状態の細胞をアナジーB細胞と総称する。

(※3) 全身性エリテマトーデス (SLE)
自己抗体の増加と自己反応性リンパ球の異常な活性化により皮膚・関節・腎臓・肺・心臓など全身の臓器に多様な症状が生じる自己免疫疾患の一つ。

詳細

本研究の詳細はこちらをご参照ください。

お問合せ先

生体防御医学研究所 馬場義裕 教授

磁場強度の変化が引き起こすプラズマ乱流遷移メカニズムの解明

高速原子間力顕微鏡が明かすエストロゲン受容体のDNA認識メカニズム

関連記事

  1. 免疫細胞の炎症制御「硫黄代謝」がカギ

    〜マクロファージの硫黄代謝を標的とした創薬にむけて〜ポイント…

  2. 卵子の遺伝子が受精後に働く仕組み解明

    ~不妊・流産の原因解明、治療法開発へ期待~ポイント・卵子の遺伝子…

  3. 低浸透圧の液体に曝されても上皮細胞が破裂しない仕…

    ~上皮細胞シートの破綻に起因する疾患に対する新たな治療法の開発に期待~…

  4. 新たなC-スルホン化反応とプロスタサイクリン拮抗…

    ~免疫と酸化ストレス制御に関わる新たな代謝機構発見と新たな医薬品開発に期待~…

  5. キネシン生体分子モーターの無細胞合成に成功

    ~ 細胞やバクテリアを使わずに手軽に生体分子モーターを合成することが可能に …

  6. 【12/2-1/6開催】九州大学MOOC(Mas…

    「免疫とその制御技術」が受講登録を開始しましたデータ駆動イノベー…

  7. 卵子染色体の正常性維持におけるヒストン修飾の新た…

    ~ヒストン修飾H3K4me3は卵染色体や紡錘体の安定性を制御する~農学研…

  8. 肥満がRNF213遺伝子変異保有者の頭蓋内動脈狭…

    〜福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry…