-生殖細胞系列変異と体細胞変異の双方が発症に関与-
医学研究院
磯部 紀子 教授
ポイント
・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)※1 発症に関連する遺伝子変異とその変異が影響を及ぼす細胞種を明らかにした。
・日本人集団のNMOSD患者から収集したゲノム情報と末梢血単核細胞(PBMC)※2 のシングルセルRNAシーケンス(RNA-seq)※3 情報を用いて、NMOSDの発症リスクとなる生殖細胞系列変異※4 と体細胞変異※5 について解析を実施した。
・ゲノムワイド関連解析(GWAS)※6 でCCR6※7 遺伝子の近傍にNMOSDの発症に関連した生殖細胞系列変異を同定した。その変異はCD4+T細胞※8 のサブグループにおいてNMOSD患者のみ量的形質遺伝子座(eQTL)※9 として機能していることが分かった。
・染色体レベルの異常として検出される体細胞変異(体細胞モザイク(mCA)※10 )は・NMOSDと強く関連していることが判明。また、NMOSD患者の21番染色体長腕に体細胞変異としての欠失が見られるCD4+T細胞でⅠ型インターフェロン※11 に関連する遺伝子の発現低下を発見した。
・NMOSDの病態解明、及び治療標的同定や創薬、ワクチン開発につながり、ひいては個別化医療に役立てられるものと期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の矢田知大さん (研究当時:遺伝統計学/神経内科学 博士課程、現:神経内科学 招へい教員)、佐藤豪さん(遺伝統計学/消化器外科学 博士課程)、小河浩太郎 助教、奥野龍禎 准教授、望月秀樹 教授(神経内科学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、九州大学大学院医学研究院の磯部紀子 教授(神経内科学)らのグループは、日本人集団のNMOSD発症に関連する生殖細胞系列変異と体細胞変異、及びこれらの変異が遺伝子発現量に変化を及ぼす細胞種を、GWASメタ解析※12 によって明らかにしました。
NMOSDは視神経や脊髄を中心とした中枢神経が障害される稀な自己免疫疾患※13 であり、発症に関する遺伝的背景については不明な点が多く残されています。今回、研究グループは、日本多発性硬化症/視神経脊髄炎スペクトラム障害バイオバンク(Japan MS/NMOSD biobank)と協力施設から収集した日本人集団NMOSD患者240名のゲノム情報を用いてGWASメタ解析を実施しました。またその結果をPBMCのシングルセルRNA-seq情報と統合することで、NMOSDの発症に関連する生殖細胞系列変異がCD4+T細胞のサブグループにおいて疾患特異的に遺伝子発現を変動させることを解明しました。
また、ゲノム情報から染色体レベルでの体細胞変異であるmCAを検出し、NMOSDと血液腫瘍、NMOSD以外の自己免疫疾患でその頻度を比較しました。NMOSD患者は他の自己免疫疾患と比較してmCAを有す
るリスクが非常に高く、血液腫瘍にも匹敵しました。またmCAが検出されたNMOSD患者のシングルセルRNA-seqを解析することで、細胞種特異的なmCAの集積が起こることを見出しました。さらに体細胞変異を有する血液細胞において免疫応答に関連した遺伝子発現量の変化が起こっていることを発見しました。
本研究成果はNMOSDの病態解明、ひいては個別化医療に役立てられるものと期待されます。
用語解説
(※1)視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)
neuromyelitis optica spectrum disorder。視神経や脳、脊髄に病変が生じる自己免疫疾患。アクアポリン4と呼ばれる水チャンネルに対する自己抗体が血清で陽性となる。血清中の抗アクアポリン4抗体が中枢神経系に侵入し、神経細胞を支えるアストロサイトという細胞を障害することで疾患が引き起こされる。
(※2)末梢血単核細胞(PBMC)
peripheral blood mononuclear cells。末梢血から分離された単核細胞成分のこと。単球やリンパ球といった免疫細胞から構成される。
(※3)シングルセルRNAシーケンス(RNA-seq)
単一の細胞レベルでメッセンジャーRNAの量と種類を測定する技術。細胞の特性や多様性を明らかにすることで、異なる細胞種やサブタイプを特定することができる。
(※4)生殖細胞系列変異
生殖細胞に由来する遺伝子変異。親から子へと遺伝する。
(※5)体細胞変異
受精後に体内の特定の細胞や組織で発生する遺伝子変異。加齢に伴い体内で蓄積する一方で、親から子へと遺伝しない。
(※6)ゲノムワイド関連解析(GWAS)
genome-wide association study。遺伝子多型と形質(疾患の有無などを含む、個々人の性質や特徴)との関連を、ゲノム全域にわたって網羅的に探索する解析。現在の一般的なGWASでは、ゲノム全域で数百~数千万に及ぶ遺伝子多型が解析に用いられる。
(※7)CCR6
ケモカイン受容体の一種。リガンドであるCCL20と結合し、免疫細胞を炎症部位や感染部位に誘導する。
(※8)CD4+T細胞
ヘルパーT細胞として知られるリンパ球の一種。抗原提示細胞からの抗原情報を認識し、他の免疫細胞を活性化または調節する働きを持つ。
(※9)量的形質遺伝子座(eQTL)
expression quantitative trait locus。遺伝子発現量の個人差と関連するゲノム領域。このような遺伝子発現量に対する遺伝子多型の影響をeQTL効果と呼ぶ。
(※10)体細胞モザイク(mCA)
mosaic chromosomal alteration。一つの個体の中で、異なる遺伝情報を持つ細胞集団が共存している状態。本研究では正常な細胞の中に染色体異常を持ってクローン性に増殖した細胞が混在している状態を指す。
(※11)インターフェロン
ウイルス感染に際して生体内でリンパ球などから産生され、分泌されるサイトカイン。抗ウイルス作用、細胞増殖抑制作用、免疫調整作用などの生物活性を持つ。大きくⅠ〜Ⅲ型に分類される。
(※12)メタ解析
2つ以上の統計解析結果について、それぞれの解析結果のばらつきを補正しながら合算する統計学的手法。
(※13)自己免疫疾患
体内の異物を排除するための免疫系が、自身の正常な細胞や組織を異物と認識し攻撃することで引き起こされる疾患の総称。
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お問合せは医学研究院 磯部紀子 教授






