細胞が基板表面に接着する「瞬間」を高時空間分解能で捉えることに成功

〜ナノサイズの線維状構造体を放射状に出し、細胞が自らを仮留めする〜

 再生医療などの目的で細胞を体外で培養する場合,足場となる人工物への細胞の接着が細胞のその後の運命を決めます。数時間をかけて安定に接着した細胞の形態については、超解像度顕微鏡(※1)など様々な先端的手法により数十ナノメートルの解像度まで調べられるようになってきましたが、細胞が人工物に触れた直後のごく弱い接着状態の細胞の動きについて、これまでリアルタイムに高解像度で捉えることは困難でした。
 九州大学先導物質化学研究所の有馬祐介 准教授,玉田薫 主幹教授,Shi Ting Lee学術研究員らの研究グループは、均一に自己組織化された金ナノ粒子からなる「プラズモンメタ表面(※2)」を用いて、細胞が接着し始める初期の挙動をナノの解像度でリアルタイム観察することに成功しました。その結果、細胞が「線維状」の構造体を「放射状」に出して基板に自らを仮留めした後、成熟した接着斑(※3)構造へと形態を変化させていくことを突き止めました。
 この現象は細胞接着性の低い基板上でのみ観察され、すなわち細胞が接着のごく初期段階で、足場となる人工物の表面の特性を捉えていた証拠になります。
 この発見は細胞と接触する人工材料を開発する上で重要な知見となります。また細胞の接着ダイナミクスを高い時空間分解能で観察できる本技術は、細胞の分子レベルでの振る舞いを理解するための基盤技術として幅広い応用が期待されます。
 本研究は、JSPS科研費基盤S「局在プラズモンシートによる細胞接着ナノ界面の超解像度ライブセルイメージング(JP19H05627)」の支援により行われました。また、本研究成果は、2021年11月29日にWiley Online Library: Advanced NanoBiomed Research(Open access)にて公開されました。

用語解説

(※1)超解像度顕微鏡
回折限界を超えた解像度を持つ光学顕微鏡の総称。ノーベル賞を受賞したSTED、 PALM、STORM などがある。

(※2)プラズモンメタ表面
自然界には存在しない特殊な光学特性を示す材料表面のうち、金属ナノ構造体から形成され、プラズモン特性を示すもの。 本研究では、直径約10 ナノメートルの金微粒子を自己組織化させることで、極めて高い屈折率と大きな消光係数を持つナノの厚みのメタ表面を作製した。このメタ表面の光吸収波長と細胞に発現させた蛍光タンパク質の発光波長を重ねることで、細胞にダメージを与えない高解像度イメージングを実現した。

(※3)接着斑
細胞が足場に接着する際に形成される、複数種のタンパク質からなる集積構造。本研究では、接着斑を構成するタンパク質の一つであるパキシリン、接着斑を起点として細胞内骨格を担うアクチンに結合するペプチド (LifeAct)のそれぞれに蛍光タンパク質が結合したものを細胞に発現させ、その挙動を蛍光顕微鏡で観察した。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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