生物を参考にしたノイズに強い新規デジタル方式
システム情報科学研究院
矢嶋赳彬 准教授
ポイント
・近年、人の皮膚のように広い面で温度や触覚を感じる「電子皮膚(e-skin)」の研究が急速に進んでいます。しかし従来の電子皮膚システムでは、アナログ回路とアナログ-デジタル変換器(AD変換器)が必要であり、高密度センサアレイでは遅延時間や消費電力が重要な制約となっています。
・本研究では、温度によって状態が急激に変化する材料を用いたセンサを用い、その出力をアナログ変換せずに直接デジタル信号として読み出す「ダイレクト・デジタル読み出し方式(DDRO)」に基づくセンサアレイシステムを世界で初めて開発しました。
・本手法は温度センサに限らず、圧力や化学センサなど他のセンサにも応用可能であり、ウェアラブル機器やロボット、医療デバイスへの展開が期待されます。
概要
ロボットハンドや大電力を扱う機器では、大量の温度センサを2次元上に並べて温度分布の情報を取得することが求められます。しかし、多数のセンサを並べたセンサアレイでは配線が長くなるため、配線ノイズや寄生容量(※1)の影響により信号が劣化しやすく、大規模化が難しいという課題がありました。そのため、大量のセンサから効率的に情報を読み取る電子回路技術の確立が望まれていました。
本研究では、ノイズの影響を受けにくく、大規模化に適した新しい温度センサ読み出し方式を開発しました。九州大学大学院システム情報科学研究院の矢嶋赳彬准教授、大学院システム情報科学府修士課程の萱野幸佑氏(研究当時。現キオクシア株式会社)、株式会社村田製作所の高相圭氏らの研究グループは、温度によって状態が急峻に切り替わるセンサ(温度に応じて電気抵抗が急激に変化し、0か1のように判別できるセンサ)とデジタル回路を組み合わせ、センサ信号を直接デジタルで読み出す新方式を提案しました。その結果、1024個のセンサからなるセンサアレイにおいて、1センサあたり最小12.2ピコジュール、1行(32センサ)あたり710ナノ秒という、極めて低消費エネルギーかつ高速な読み出しを実現しました。
今回の成果は、人の皮膚のように広い面で温度を感じる「電子皮膚」やウェアラブルセンサの高性能化に役立つと期待されます。本研究成果は半導体分野の国際会議「VLSIシンポジウム」において2026年6月17日(現地時間)に発表されます。
研究者からひとこと
提案したセンサ読み出し方式は、ヒトの皮膚の温度読み出し方法を参考にしたものです。皮膚は正確な温度の絶対値を出力することはできませんが、10-100万個という大規模なセンサアレイからリアルタイムかつ省エネに温度を読み出すことができます。本研究は、生物の仕組みから新しい回路技術を生み出した例だと言えます。(矢嶋赳彬)
用語解説
(※1) 寄生容量
配線同士やセンサ素子内部に生じる意図しない電気容量のこと。回路動作に大きな影響を与えるため、寄生容量を考慮して回路・システムを設計する必要があります。
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