思い出を「選んで残す」メカニズムを解明

-記憶の「安定化スイッチ」として働く意外な細胞-

生体防御医学研究所
増田 隆博 教授

概要

理化学研究所(理研)脳神経科学研究センターグリア-神経回路動態研究チームの長井淳チームディレクター、出羽健一基礎科学特別研究員、加瀬田晃大研究パートタイマーⅠ(日本学術振興会特別研究員DC2)、九州大学生体防御医学研究所の増田隆博教授らの共同研究グループは、「強い印象のある出来事はよく覚えている」「繰り返したことは忘れにくい」といった身近な現象について、その背後にある脳の仕組みが、神経細胞ではなく、その隙間を埋めるアストロサイト[1]という意外な細胞によって支えられていることを発見しました。

脳は、神経細胞とそれ以外のグリア細胞[2]で構成されています。長らくグリア細胞は神経細胞の隙間を埋めるだけの存在と考えられてきましたが、近年の研究により脳内の代謝や神経活動の調節など、多様な機能を担うことが明らかになっています。

今回、共同研究グループは、アストロサイトというグリア細胞の一種が、強い感情を伴う体験を、その後数日間にわたって分子レベルの「痕跡」として残し、2回目の体験時にそれを記憶として選び取り定着させる「安定化スイッチ」として働くことを初めて明らかにしました。

感情と記憶の結び付きは、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)など多くの精神疾患と関係があります。本研究が明らかにした「記憶を選別し安定させる仕組み」は、「記憶を和らげる」あるいは「選んで残す」といった治療に応用できる可能性があり、医療や社会への波及効果も期待されます。

本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(10月15日付:日本時間10月16日)に掲載されました。

補足説明

[1] アストロサイト
グリア細胞の一種で、100年以上前の顕微鏡技術で星型(アストロ)の細胞(サイト)に見えたことから命名された。脳組織の恒常性や代謝機能の調節も担う。

[2] グリア細胞
脳の中に存在する神経細胞以外の細胞。神経伝達の調節や神経細胞の保護、ダメージを受けた細胞の除去などを担う、脳の健全性を保つ上で不可欠な細胞。

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生体防御医学研究所 増田隆博 主幹教授

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