動物成分を全く含まない、植物素材のみでヒト幹細胞の制御培養に成功

農学研究院
北岡 卓也 教授

樹木由来のセルロースナノファイバーで目指す再生医療

ポイント

・再生医療の実現には、他動物由来成分を “全く使わない” 幹細胞培養の仕組みが必要不可欠
・樹木由来のセルロースナノファイバーを用いることで動物成分不含の培養基材の開発に成功
・からだの外でヒト幹細胞を制御培養することで、再生医療や創薬支援基盤での実用化に期待

概要

 再生医療は、病気やけがなどで機能が損なわれた組織や臓器を修復・再生する医療技術です。その実現には、からだの外でヒトの細胞を効率的かつ適切に培養する必要がありますが、これまではヒト以外の動物のコラーゲンや生体成分を抽出して培養基材に使う必要がありました。そのため、免疫拒絶や感染リスクの観点から、動物成分を全く含まない(Xeno-free,ゼノフリー)細胞培養基材が望まれていました。
 今回、樹木由来のセルロースナノファイバー(※1)の表面特異的に生体官能基を導入することで、動物由来成分を全く使うことなく、ヒトの腸骨骨髄から採取した間葉系幹細胞(※2)のゼノフリー培養に成功しました。従来の動物由来コラーゲンに匹敵する培養効率を、植物成分のみで達成しました。
 国立大学法人九州大学大学院生物資源環境科学府の甲斐理智氏(修士課程2年)、大学院農学研究院の畠山真由美助教、北岡卓也教授および横河電機株式会社の岩本伸一朗博士らの共同研究グループは、木とヒトに共通するナノ構造である「ナノファイバー形状」と「規則的な多糖界面構造」に着目し、本来細胞接着の能力を全く持たない樹木由来のセルロースナノファイバーに、結晶構造を保ったまま硫酸基等の生体官能基を導入することで、すぐれた細胞接着性と増殖性が発現することを発見しました。
 今回の発見は、ヒト幹細胞を用いる再生医療のみならず、生体内の組織・臓器機能を持つ細胞を生体外でつくる技術や、それを活かした創薬支援基盤技術の開発に役立つことが期待されます。
 本研究成果はエルゼビア社の学術雑誌「Carbohydrate Polymers」に2024年7月10日(水)(日本時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

 本研究は、住宅建材や紙パルプなどで長い利用の歴史をもつ木質素材が、ナノ化技術によりヒト幹細胞を培養できることを発見したものです。大学院生の私にとって本研究は、循環型資源である天然多糖の新たな魅力を感じるきっかけとなりました。今後も環境と健康が調和する材料研究に携わりたいと考えています。(修士2年 甲斐理智)

用語解説

(※1) セルロースナノファイバー
樹木や草などの植物の主要成分であるセルロースを、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルサイズまで微細化した天然ナノ素材。

(※2) 間葉系幹細胞
成体内に存在し、骨や軟骨、脂肪、筋肉など様々な細胞へと分化できる細胞。

お問い合わせ先

農学研究院 北岡 卓也 教授

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