新しい核偏極リレー法により「水の高核偏極化」に成功

~薬物スクリーニングや細胞内のタンパク質解析への道~

ポイント

・室温で水を高核偏極化できればNMRやMRIの検出感度向上につながるが、これまでは困難だった。
・ナノサイズの有機結晶から水へ核スピンの偏極を移行する「核偏極リレー」により、室温でも水のNMR信号*1を熱平衡状態と比較して2倍以上向上することに成功した。
・室温で高偏極状態にした水を利用し、その偏極状態を様々な生体分子に移すことは、タンパク質と薬物の相互作用や生きた細胞中でのタンパク質解析を可能にする技術への重要な一歩となる。

概要

 核磁気共鳴分光法 (NMR)*1 や磁気共鳴イメージング (MRI)*2 は、化学や医療など幅広い分野で利用される技術です。それらの技術では物質内の原子が持つ核スピンを利用し、分子に関する情報を観測しています。しかし、観測に利用できる核スピンが非常に少ないことから得られる信号も極めて弱いことが課題となっていました。特にMRI では主に体内に多量に存在する水分子の信号を利用していますが、温和な条件下では、そのわずかな核スピン(0.001%程度)しか利用できていません。
 今回、九州大学大学院工学研究院の楊井伸浩准教授、君塚信夫教授、同大学大学院工学府の松本尚士大学院生、西村亘生大学院生、理研-JEOL連携センター及び株式会社JEOL RESONANCEの西山裕介ユニットリーダー、理化学研究所開拓研究本部及び仁科加速器科学研究センターの上坂友洋主任研究員、立石健一郎研究員の研究グループは、室温で水の NMR 信号強度を向上させる新たな手法を開発しました。
 NMRやMRI の検出感度を向上させるには、原子が有する核スピンの向きを揃えた高偏極状態を作り出す必要があります。そのため、これまで電子スピンの偏極を直接水分子の核スピンへ移す戦略がとられてきましたが、極低温 (-150℃以下) での測定や、測定に悪影響を及ぼすラジカル分子を加えることが必要でした。研究グループはナノサイズの有機結晶内で生成した電子スピンを核スピンへ移し、その結晶内で蓄積した核偏極を水分子へ移す「核偏極リレー」によって、初めて室温で水分子を高偏極状態にすることに成功しました。
 今回実証された新たな技術は、室温で様々な生体分子に対する連続的な NMR/MRI 感度向上につながり、薬物スクリーニングや細胞内タンパク質構造解析の新しい手法開発として期待されます。
 本研究成果は、2022年9月15日(木)に米国化学会の国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

用語解説

*1) 核磁気共鳴分光 (nuclear magnetic resonance : NMR) とNMR信号
物質を構成する分子は原子が組み合わさってできており、原子は磁石のような核スピンを持つものがあります。核スピンは通常ランダムな配向を取っていますが、磁場中に置かれると二つの向きしか取ることができません。この二つの状態のエネルギーには差があり、そのエネルギー差に対応するラジオ波を照射すると核スピンがその状態間を遷移します。核磁気共鳴分光 (NMR)では、このエネルギーの遷移過程を電気信号(NMR信号)として捉えています。核スピンが吸収するエネルギーは周りの環境に応じて異なっており、そのエネルギーの違いから分子に関する情報を得ることができます。
*2) 磁気共鳴イメージング (magnetic resonance imaging : MRI)
ラジオ波を照射して状態が変化した後、核スピンは元の状態 (熱平衡状態) へ戻ります。戻るまでの時間は核スピンが置かれている環境によって異なります。この違いをコントラストとして画像化したものが磁気共鳴イメージング (MRI) です。MRI は人体に負担をかけずに体内の情報を得ることができるため、医療現場などで活躍しています。

詳細

九州大学プレスリリースをご参照ください。

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