― 再生可能電力でバイオマスを化学原料へ変換する電化プロセスに道 ―
工学研究院
椿俊太郎 教授
ポイント
・半導体式マイクロ波(※1)により、竹などのバイオマスを水素等へ高速変換する触媒熱分解法を開発
・ニッケルナノ粒子上の局所高温場を、放射光X線を用いたその場(in situ)観察で実証
・マイクロ波条件の制御により、バイオマス由来合成ガスの生成と組成制御に道筋
概要
脱炭素社会の実現に向けて、化石資源に依存しない化学品・燃料製造プロセスの開発が求められています。なかでも、植物由来のリグノセルロース系バイオマスは再生可能な炭素資源として期待されていますが、熱伝導性が低く、従来の外部加熱では高速反応が難しいという課題がありました。
九州大学大学院工学研究院の椿 俊太郎 教授らを中心とする研究グループは、東北大学、みなも株式会社、国際基督教大学、高エネルギー加速器研究機構、東京工業大学(当時・現東京科学大学)と共同で、精密に制御したマイクロ波をニッケル担持触媒(Ni/SiO2-Al2O3)に照射し、竹などのリグノセルロース系バイオマスを短時間で熱分解して、水素や一酸化炭素を含む有用ガスへ変換する触媒反応を開発しました。本研究では、半導体式マイクロ波発振器(※2)で周波数や共振条件を制御しながら、Ni担持触媒と結晶性セルロースまたは竹粉を加熱しました。その結果、急速な昇温と触媒反応が進み、通常加熱と比べて水素生成が大きく促進されることを確認しました。また、周波数や空洞共振器のQ値(※3)により、エネルギー供給や生成ガス量を制御できることを示しました。
さらに、放射光X線を用いた測定により、マイクロ波照射下でNiナノ粒子が周囲より強く加熱され、局所的な高温場を形成することを実験的に示しました。さらに、見かけ温度が350–400 ℃程度でもNi粒子の焼結が急速に進む一方、通常加熱では1000 ℃でも同様の焼結が起こりにくく、マイクロ波による選択的加熱が裏付けられました。
本成果は、再生可能電力でバイオマスを高速かつ選択的に化学原料へ変換する電化プロセスの基盤として期待されます。
本研究成果は雑誌「Chemical Engineering Journal」に2026年7月7日(火)にオンライン掲載されました。
研究者からひとこと
マイクロ波加熱は、触媒ナノ粒子のような反応の起点へエネルギーを集中できる点に大きな特徴があります。本研究では、放射光in situ測定により、ニッケルナノ粒子上の局所高温場を実験的に示しました。今後は、このマイクロ波加熱を精密に制御し、バイオマスから水素などを効率よくつくる技術へ発展させたいと考えています。
用語解説
(※1)マイクロ波
周波数が300 MHz~30 GHzの電磁波の一種で、通信(携帯電話、Wi-Fiなど)やレーダーとして広く利用される。2.45 GHzや5.8 GHz の特定の周波数は、家庭用電子レンジや産業用加熱装置としても利用される。スケールにアップには波長の長い915 MHzが有効であるが。さらに低い周波数(300 MHz以下)は高周波とも呼ばれる。
(※2)半導体式マイクロ波発振器
従来の電子レンジは真空管(マグネトロン)式であり、位相や周波数、出力が経時的に変化しやすい。一方、半導体式マイクロ波発振器ではこれらを精密に制御することができ、これによって従来の電子レンジでは困難な、繊細なマイクロ波加熱制御が可能となった。さらに、近年、高出力の半導体によるマイクロ波加熱装置が普及しつつある。
(※3)Q値
共振周波数での信号の鋭さを示す指標。Q値が高いほど共振が鋭く、マイクロ波エネルギーが空洞共振器内で集中しやすいが、周波数や試料条件の変化に対して敏感になる。本研究では、空洞共振器のQ値を調整することで、触媒へのエネルギー供給や生成ガス量の制御に影響することを示した。
詳細
本件の詳細についてはこちら




