プラスチックから水素へ変換する技術を開発

沖縄を対象としたマイクロ波熱分解の社会技術的評価

カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
チャップマン アンドリュー 准教授

ポイント

・沖縄のような海に囲まれた地域では、最終処分場の制約やリサイクル基盤の不足が深刻であり、廃プラスチック処理と脱炭素化を同時に進める新たな方策が求められています。
・本研究では、住民調査とマイクロ波支援触媒熱分解実験を組み合わせ、プラスチックから水素への変換が海に囲まれた地域の社会・インフラ条件とどの程度適合するかを明らかにしました。
今後、清潔で比較的均質な産業系・商業系プラスチックを活用した水素製造が、地域の廃棄物管理負担の軽減とエネルギー脱炭素化に貢献することが期待されます。

概要

 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所のチャップマン アンドリュー准教授、椿 俊太郎教授、沖縄工業高等専門学校の藤井 知教授の研究グループは、沖縄県を対象に、プラスチック廃棄物をマイクロ波支援熱分解によって水素へ変換する技術の可能性を評価しました。
 本研究では、住民アンケート、関係機関への聞き取り調査、ならびに実験室レベルでの触媒熱分解実験を組み合わせ、プラスチックから水素を製造する技術が、海に囲まれた地域における廃棄物管理とエネルギーシステムの課題にどの程度対応できるかを検討しました。沖縄では、最終処分場容量の制約、県外への廃棄物輸送コスト、大規模なプラスチックリサイクル基盤の不足といった課題があります。一方で、地域の脱炭素化に向けて水素利用への関心も高まっています。
 沖縄県内の住民91名を対象としたアンケート調査では、プラスチックリサイクル制度の改善に対する支持は高い一方で、参加を妨げる要因も明らかになりました。多くの回答者は、リサイクル可能なプラスチックの種類や施設に関する知識が限られており、分別や洗浄に手間がかかることを大きな障壁として挙げました。また、リサイクルサービスへの支払い意思は条件付きであり、コストが最も気になるという結果が得られました。
 技術面では、研究グループは、制御された実験条件下において、ポリプロピレンをマイクロ波支援触媒熱分解により水素を多く含むガスへ変換できることを実証しました。活性炭を添加することで、通常はマイクロ波を吸収しにくいプラスチックの加熱が可能となり、鉄系触媒は水素生成を促進しました。特に複数元素を含む鉄系触媒は、水素生成を高めるとともに、二酸化炭素生成を抑制する効果を示しました。
 しかし、本研究は同時に、重要な社会技術的ミスマッチを明らかにしています。実験で高い性能を示したプロセスは、清潔で比較的均質なプラスチック原料を必要とします。一方、実際の家庭系プラスチック廃棄物は、複数種類の樹脂が混在し、食品残渣やラベル、汚れなどを含む場合が多く、住民にとって分別や洗浄の負担も大きいことが確認されました。
 そのため、プラスチックから水素への変換は、現時点では家庭系混合プラスチック廃棄物に対する単独の循環型解決策としてではなく、事前に分別された産業系・商業系プラスチックを対象とする限定的なエネルギー回収技術として位置づけることが適切であると考えられます。地域内の水素需要、例えば発電用ガスタービンでの水素混焼や産業用途と連携できれば、既存の廃棄物処理システムへの負荷を軽減しつつ、地域の脱炭素化にも貢献する可能性があります。
 本研究成果は「Environmental Challenges」に2026年6月11日(木)(現地時間)に掲載されました。

詳細

本件の詳細についてはこちら

お問い合わせ先

カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 チャップマン アンドリュー 准教授

[7/1開催]第237回アジア・オセアニア研究教育機構(Q-AOS)Brown Bag Seminar Series「生活時間の貧困研究:測定手法と課題」

“島流し”にあったノコギリクワガタは、なぜ巨大な武器を手放したのか

関連記事

  1. 中性子寿命の謎、解明に向けた新実験が始動

    ―第3の手法により中性子寿命問題の解明に挑む―ポイント・新しい手…

  2. キラルな分子集合体が一重項励起子分裂を促進するこ…

    ~太陽電池・光触媒の性能向上や量子スピン材料開発に向けた新しい分子設計指針を…

  3. 小惑星リュウグウから始原的な「塩(Salt)」と…

    〜小惑星リュウグウから始原的な「塩(Salt)」と有機硫黄分子群を発見…

  4. 《3/4開催》第2回データ駆動イノベーション推進…

    ~デジタル社会における幸福感「幸せの測り方と支え方」~人間は古代よ…

  5. 光が金属の中を突き進む!

    ~ 相対論効果が拓くレーザーイオン加速の新世界 ~ポイント・光が…

  6. 《8/21開催》令和7年度第5回I²CNER S…

    講師はSushanta Mitra教授(ウォータールー大学、カナダ)です…

  7. 分子ドリフトを観察し星誕生に迫る

    前恒星コアにある2分子の速度差を初めて観察し、 磁場とガスの分離による初期星…

  8. 「社外秘の流出を防ぎながら、高度な知を集結・共用…

    京都大学、九州大学、MP五協フード&ケミカル、日清食品ホールディングス、日清…