全国8地域の大規模認知症コホート研究により、APOEε4遺伝子型と修正可能な危険因子が認知症リスクに及ぼす相互的な関連を報告

医学研究院
二宮利治 教授

ポイント

・本研究では、⼤規模認知症コホート研究であるJPSC-AD研究に参加した65歳以上の地域住民9,605名を対象に、APOEε4遺伝子型別に修正可能な危険因子と認知症、脳画像所見との関連を解析した。
・その結果、APOE ε4非保因者およびヘテロ接合性保因者では、修正可能な危険因子の集積が少ないほど認知症の有病率が低かった。一方、APOE ε4ホモ接合性保因者では、修正可能な危険因子の集積の程度による認知症リスクの明らかな差は認められなかった。

概要

 近年、認知症予防を進めるうえで、生活習慣病などの修正可能な危険因子の管理が重要視されています。しかし、認知症に強く関連するAPOE ε4遺伝子型(※1)と修正可能な危険因子が認知症リスクに及ぼす相互的な関係については、十分に明らかにされていませんでした。
 九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、熊本将也学術研究員(理化学研究所生命医科学研究センター基盤技術開発研究チーム客員研究員兼務)ら、理化学研究所生命医科学研究センターの桃沢幸秀副センター長、および弘前⼤学、岩⼿医科⼤学、⾦沢⼤学、慶應義塾⼤学、松江医療センター、愛媛⼤学、熊本⼤学、東北⼤学加齢医学研究所の研究者からなる共同研究グループは、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究であるJPSC-AD 研究(※2)に参加した65歳以上の地域高齢住民9,605名を対象に、APOE ε4遺伝子型と修正可能な危険因子スコアの組み合わせと認知症との関連を検討しました。修正可能な危険因子スコアは、教育歴、高血圧、糖尿病、低体重、脳卒中既往、喫煙、身体活動を点数化したもので、0から2点を低スコア群、3点以上を高スコア群としました。
 その結果、APOE ε4遺伝子型非保因者とヘテロ接合性保因者(※3)において、修正可能な危険因子スコアが低い群では、高い群に比べ、認知症を有するリスクが有意に低く、脳MRI解析において海馬・灰白質容積が大きく、白質病変容積が小さい傾向が認められました。一方、ホモ接合性保因者では、低スコア群と高スコア群の間で認知症リスクや、各脳部位容積に明らかな差を認めませんでした(図1,2,3)。
 なお、本研究は横断研究であるため、因果関係を論じるには限界があります。
 本研究の成果は、APOE ε4ヘテロ接合性保因者など一定の遺伝的リスクを有する人においても、生活習慣病などの修正可能な危険因子の管理が、認知症のリスク低減に寄与する可能性を示すものです。
 本研究成果は、国際学術誌Alzheimer’s & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoringに2026年5月22日(金)に掲載されました。

研究者からひとこと

APOE ε4遺伝子型を保有している場合でも、ヘテロ接合性保因者では生活習慣の見直しにより認知症リスクを低減できる可能性があります。(二宮利治)

用語解説

※1 APOE ε4遺伝子型
…APOE遺伝子は脂質代謝などに関わる遺伝子で、ε2、ε3、ε4 などの型があります。このうち APOE ε4は、アルツハイマー型認知症の代表的な遺伝的リスク因子として知られています。

※2 健康⻑寿社会の実現を⽬指した⼤規模認知症コホート研究:Japan Prospective Studies
Collaboration for Aging and Dementia(JPSC-AD)
…我が国の8地域(⻘森県弘前市、岩⼿県⽮⼱町、⽯川県七尾市中島町、東京都荒川区、島根県海⼠町、愛媛県伊予市中⼭町、福岡県久⼭町、熊本県荒尾市)における地域⾼齢住⺠約1万⼈を対象とした⼤規模認知症コホート研究である(https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/jpsc/)。
ベースライン調査は2016年−2018年に実施され、予め8地域で標準化された研究計画に基づいて、詳細な臨床情報(認知機能を含む)、頭部MRI 画像データ、遺伝⼦情報を収集している。さらに、認知症や⼼⾎管病の発症や死亡に関する追跡調査を継続している。なお、本研究は、国⽴研究開発法⼈⽇本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業の研究助成⾦を受けている。また、サントリーホールディングス株式会社との共同研究も実施している。

※3 ヘテロ接合性保因者/ホモ接合性保因者
…ヒトは通常、遺伝子を父母から1コピーずつ、計2コピー持っている。ある遺伝子型を1コピー(片方)持つ人をヘテロ接合性保因者、2コピー(両方)持つ人をホモ接合性保因者と呼ぶ。

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