自閉症関連タンパク質による造血幹細胞の機能維持メカニズムを解明

- 自閉症に対する新たな治療戦略の開発に期待 -

 九州大学生体防御医学研究所の中山 敬一 主幹教授、仁田 暁大 学術研究員、金沢大学医薬保健研究域医学系の西山 正章 教授らの研究グループは、自閉症の原因タンパク質であるCHD8が、造血幹細胞の機能維持に重要な役割を果たすことを明らかにしました。

 CHD8は自閉症患者において最も高頻度で変異が認められている遺伝子です。CHD8遺伝子に変異を持つ自閉症では、コミュニケーション異常や固執傾向といった自閉症特有の症状が認められます。そのため、神経系に特化した研究が盛んに行われていますが、CHD8は神経系のみならず様々な組織で発現しており、特に幹細胞で高発現していますが、その機能はほとんどが不明でした。

 本研究グループは、血液細胞に着目して解析すると、造血幹細胞でCHD8の発現量が高いことを突き止めました。そこで、血液細胞におけるCHD8の機能を詳細に解析するため、血液細胞特異的にCHD8を欠損させたマウスを作製して解析しました。その結果、CHD8を欠損した造血幹細胞は、異常な増生が認められるが、幹細胞としての機能は消失していました。この原因を突き止めるために、CHD8欠損造血幹細胞をRNAシークエンスで網羅的に遺伝子発現状態を評価すると、がん抑制遺伝子のp53が活性化することで、造血幹細胞から分化した血液細胞を産生する過程で障害を来していることが明らかとなりました。さらに、CHD8とp53を共に欠損させたマウスを作製して解析すると、CHD8欠損により生じた異常が部分的に回復することを突き止めました。

 本研究により、自閉症発症の原因遺伝子であるCHD8が造血幹細胞において重要な機能を果たすことが明らかとなり、今後のCHD8遺伝子に変異を持つ自閉症患者の効果的な治療法開発の扶翼となることが期待されます。本研究成果は、2021年2月2日(火)午前11時(米国東部時間)に米国科学雑誌「Cell Reports」で公開されました。

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九州大学プレスリリースをご参照ください。

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